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love letter from K. Season3「食べること」 アクリル板の向こう側 ー表編ー

ストア:KOZLIFE掲載日:2021/04/23
コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。

アクリル板の向こう側 ー表編ー

これまで8回に渡り、時にはそのど真ん中を、時には少し違った視点から「食べること」について書いてきました。そして、そろそろまとめをしていく頃かなと考え始めました。2021年春、こういう混迷の時だからこそ、今見える景色をきちんと書き記しておく事が大切ではないかと。自分自身はもちろん後々読む方のためにも。9、10回目は総集編として、ポストコロナ時代への「食べること」をコンセプチュアルな視点で見ていきたいと思います。

外食大国の秘密

「ここのピザは本場のナポリで食べるのと同じかそれ以上に美味しい。」恵比寿のとある店の前を通った時に聞いた言葉。日本は、とりわけ都市部では世界中のグルメを楽しめるお店が多くあり、そのどれもが一様にレベルが高い。海外に行ったことのある方であれば、日本の外食レベルの高さが世界トップクラスであることは何となく分かると思います。

駅前には大手外食チェーンのお店があり、安価で美味しい食事が食べられます。それも主要都市であれば必ず定食屋や中華料理屋のひとつはある。こういった光景は他の国では珍しい。300円台であれだけ美味しい牛丼が食べられるのだから、日本人は本当に恵まれているなぁと海外から帰国する度に思います。食べる側には恩恵が多いですが、それを提供する側はかなり無理をしているのではないでしょうか。これだけ多くの店舗を経営しているのだから、少ない人数・低い賃金で長時間労働を強いられているのはそれとなく想像がつきます。

高解像度

ここで気づいたことがあります。料理にそこまで興味のない男性にとって大切なのは「おいしいかどうかだけ」なのかもしれないと。おいしい方かまずい方どっちがいい?と聞かれてまずい方を選ぶ人はいないはず。料理はしなくとも外食はするでしょうから、おいしいものはちゃんとわかっている。確かに僕も昔はレシピを読むのが嫌でした。そして、自分なりにやるとあんまり上手にいかなかったような。

これを日本人にあてはめてみると、僕は「味覚」がそうじゃないかと思うのです。幼い頃から日本食のだし文化・薄味文化で育ち、「旨味」を知覚できるようになった舌は、年齢と供にみるみるうち鍛え上げられ、繊細な味の違いも見分けられる高解像度な味覚の持ち主へと成長する。国民の大半がそんな育ち方をしていると仮定するならば、間違いなく日本人は世界一の味覚を持っていると言っても過言ではない。現に様々な調査では、日本人は外国人に比較して倍以上の味覚力を持っていることがわかっています。その主な要因は旨味。従来世界的には、旨味・塩味・酸味・苦味という4つの味覚しかなかったが、旨味の舌の受容体が2000年に発見されたことで、5番目の味覚「umami」が世界的に認知され始めました。

独自の文化

日本は、2回原爆を落とされている世界でも珍しい国です。その影響もあり、歴史を経て培ってきた自国の文化は傷だらけ。敗戦国ゆえ、声高らかに日本文化を中心には置けず、ちょっと脇に追いやりながら西洋文化を学び歩んできました。この「学ぶ」という謙虚な姿勢と、脇に仕舞っておいた日本人としての感覚を上手く混ぜ合わせ、独自の文化を作るようになりました。それが今僕達が住んでいるこの世界です。
高解像度な舌を持った日本人は世界を旅し、それを持って帰ってきて美味しい物を作った。パスタはイタリア同等、いやそれより美味しく、ラーメンも中国では食べられない姿にまで進化しました。アメリカから上陸したドーナツでさえ、より日本人に合うよう繊細な味へと変貌を遂げています。韓国の友人は、日本を訪れると必ず吉野家で牛丼を食べると語っていました。プルコギがあるでしょうと聞くと、本国より日本で食べた方が美味しいと言うのです。今や日本は、世界中の人が世界中のグルメを食べに訪れる「世界のレストラン」になってきているのではないでしょうか。そして、それを支えているのは、紛れもなく日本人の高解像度な舌ではないでしょうか。

僕らの舌はどこへいくのか

2020年、東京五輪という看板を掲げ、世界中から訪れる人々の舌を唸らせようと新しい商業施設・お店が続々とオープンしました。それから1年が経ち、日の目を見ずに閉店や退店を余儀なくされるレストランが後を絶たず、飲食店ではアクリル板のパーテーションがお客の数よりも多く立っている景色もしばしば見かけます。アクリル板。目の前に鎮座するこの透明な板。よく磨かれているお陰で視界はくっきりしているものの、それを食べている人を外側から眺めれば、匂いや味、雰囲気までもが箱の中に閉じ込められているショーケースの中のようにも見えてしまう。

僕も何回か気をつけながらも飲食をしましたが、周りが気になったり今までのようには楽しめないあの感覚。舌にフィルターが掛かってしまったみたいで、集中して味わえません。「自分は、ここまでして食べたかったんだろうか?」と考える事もありました。

外食天国、ニッポン。
最高に美味しいこの国を僕らの舌はこれからどう感じ取って行けば良いのでしょうか。

Seson3最終回へつづく
(次回最終回は5月14日更新予定です。お楽しみに!)
和田 健司
和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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