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love letter from K. Season4「ヒト」 偶然力

ストア:KOZLIFE掲載日:2021/07/09
コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。

偶然力

皆さんは写真を撮りますか?今では、大多数の方がスマホで写真を撮ることが日常的になっていると思いますが、そうなってきたのも実はここ20年位の出来事。それまでは、写真は趣味の世界として楽しまれていました。前回ご紹介したストリートスナップもそのひとつ。あまり深く考えずにシャッターを切り、後で見る事で、意味のない写真が意味を持ってきたりするのを楽しみます。
前回は写真をお見せしただけだったのですが、今回はその中身を覗いていきながら「偶然と脳」について語っていきましょう。

シャッター

カメラというのは、時間と空間を切り取って保存をする道具。キャプチャーをしただけですから、後で見返すと色々な見え方をしてくるのが写真の本当の面白さでもあります。この2枚の写真は、前回も登場したもの。どちらも渋谷で撮影したお気に入りなのですが、実はどうやって撮ったかどうかも覚えていない位(笑)の、まさにたまたま撮れた写真達。
“撮り合いっこ”
“撮り合いっこ”
センター街を歩く外国人の方が、カメラを向けている所を更に僕が撮ったもの。でも良く見ると隣の女性の手が顔に被っている。髪を触ったようにも見えるし、撮影されるのを嫌そうにしているようにも見えます。ただ、隣の外国人にも、これを撮っている僕にも気づいていなさそうでもあります。

中央で堂々とカメラを向ける外国人。実は良く見ると奥に小さく写っている女性も向こうを向いており、この写真に映っている人は全て顔を隠しています。(警備員さんの顔はギリギリ見えない)偶然とはいえ、渋谷というグローバルな観光地でも、たまにはゆっくりしたいんだよという本音が漏れているようにも見て取れます。
“ぐるぐる交差点”
“ぐるぐる交差点”
交差点を渡る人々の中で女性が1人こちらを向いて立ち止まっているように見えます。でも足元を見れば実は歩いている途中で、拡大をするとこちらを見てはいませんでした。彼女の足元に広がるのは昨晩の暴走したであろう車のタイヤの跡。ぐるぐると綺麗に描かれた黒い線の上に偶然にも女性の足が乗っており、円をの上を歩いているかのよう。そんな彼女を脇目に颯爽と駆け抜けていく自転車、行き交う人々。全員が動いているはずなのに、彼女だけが円の中でぐるぐる回っている。

偶然写ったなんとも不思議な光景ですが、じっと見つめれば様々なストーリーが浮かんできそう。渋谷という街の賑やかな雰囲気と人間の内面のコントラストが、写真に一段と深みを与えてくれます。

脳がよろこぶ

冷静になって「写真を見て色々と想像するのって、なぜ楽しいんだろう?」と考えていました。そんな時、ふと以前書いたエッセイの、“想像力という、このひとつの違いが人類を現在まで導いた"という一文を思い出したのです。人間と他の動物の決定的な違いはここにあると。

確かに、「○○かもしれないね。」とか「もしかしたら○○じゃない?」と誰かと話している時、脳が刺激を得ているいるのがわかります。偶然起きた事を目の前にして、これは自分とは関係ないと無視するのではなく、もしかしたら…と想像力を働かすことは実は最も人間らしい行為をしていると言っても良いのです。そう思って世の中を見てみると、目の前には予想していなかった事だらけだという事に気がつく。その量は膨大なので、ついつい今までの経験やパターンに基づいてスムーズに事が運ぶように本能的に行動していますよね。そこに色々と想像力を働かせて…なんてやっている時間はありませんから。ただ、人間の進化からすれば、本当は脳が喜ぶ絶好のチャンス。これを楽しまない手はありません。

実は、人類の先頭を切ってそれを実践している存在がいます。子供です。

知識や経験が増えれば増えるほど、脳はそれを記憶し、固定概念が作られます。一方小さな子供は、大人の予期しない事ばかりを起こす。固定概念がないため想像力が全開になり、目の前の出来事を脳が喜ぶ方へ方へと行動をしていくからです。つい「ダメ。」と言ってしまいますし、合理的に考えれば大人の言う事が大体正解ではあります。ただ脳の活性化という観点からすれば、ダメなのは大人の方かもしれません。試しに子供達が起こした事を褒めたりしてみると、調子に乗ってさらに面白い出来事が起きるはず。彼らは偶然の達人であり、脳が凝り固まった大人が見習うべき存在なのです。

偶然ショッピング

ショッピングも想像力を働かせると思わぬ良い結果を生むことがあります。以前植木鉢カバーを買おうとした時のこと。ボタニカルショップで植木鉢売り場を見たのですがあまり良い物がありませんでした。まぁいいやと、道中のショップなどに入り、ゴミ箱、バケツやランドリーバスケット、衣装ケースやバッグ売り場など、形が似ていそうな物を見て回り、最終的にハット用の入れ物が雰囲気が良いのと圧倒的に安かったので、購入しました。

偶然出会ったその瞬間、僕の脳は喜んでいた、かもしれません。

つづく
(次回は7月30日更新予定です。お楽しみに!)
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和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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