コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
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しごと・いきごと
世界的なパンデミックが流行し始めてからというもの、私達の働き方や生き方は、予想していたよりも格段に速いスピードで変化してきています。今就いている仕事が本当に自分に向いているのか?本当に望んでいる場所に住んでいるのだろうか?自分達の生き方について考える人達は、少なくないようです。今回のエッセイは「仕事」について。避けては通れない、でもなかなか行動に移せない悩みの種でもあります。
最近の日本の匂い
東京では、2021年に初の「転出」が転入を上回りました。リモートワークが普及したことも影響し、都市部にいる必要性を感じなくなったり、子供達の成長環境を考え移住を決意した人も多いとのこと。
この数年で「好きを仕事に」や「自分らしく」なんてCMや広告をよく目にするようになりましたよね。10数年前であれば、まだまだ終身雇用が日本人のど真ん中の生き方で、個人でデザイナーをしていますなんて言うと「そうなんですね~。」とあまり信用のない目で見られた事もありました。就職していない=あまりちゃんとした生き方をしていない、大袈裟ですが当時はそんな雰囲気さえ漂っていたと思います。
が今はどうでしょう。むしろ小さくても自分で事業を起こしたり、副業を幾つか掛け持ちしながら生きている人を見る目は、昔とは明らかに違い、むしろ羨ましくも思われているように感じます。決して安定していない生き方かもしれませんが、楽しく生きている人が輝いて見えてくる。日本は、ここ数年でぐっとそんな匂いに包まれてきた気がしています。
やめられない存在
2016年、朝日新聞に投書された、ベトナムの留学生グエン・ティ・トゥイさんの「日本人の幸福って何なの?」にこんな言葉がありました。
“私は日本に来るまで、日本は立派で偉大な国だと思っていた。来日当初も、街の発展ぶりや人々の生活の豊かさを見て、私の国ベトナムとの差は大きいと感じた。きっと日本人は自分の国に誇りを持ち、幸せだと感じているのだろうと思っていた。
しかし、来日から10カ月が過ぎた今、実はそうではないように感じる。
日本は、世界でも自殺率が高い国の一つだという。電車の中では、睡眠不足で疲れた顔をよく見る。日本人はあまり笑っていないし、いつも何か心配事があるような顔をしている。
日本人は勤勉で、一生懸命働いて今の日本を建設した。でも、会社や組織への貢献ばかり考え、自分の成果を自分が享受することを忘れていると思う。ベトナムはまだ貧乏な国だが、困難でも楽観的に暮らし、めったに自殺を考えない。
経済的豊かさは幸福につながるとは限らない。日本人は何のために頑張っているのか。幸福とは何なのか。日本人自身で答えを探した方がいいと思う。”
「経済的豊かさは幸福につながるとは限らない。」ぐさっと刺さった言葉でした。なんとなく感じていた事を射貫かれた、しかも海外の方に。これは逆の体験ですが、実際僕がオランダに住んでいた時にも「オランダ人は、なんでいつもこんな楽観的に楽しそうにしてるんだろうなぁ。それに比べて日本人は…」と不思議に思っていました。そもそも国民性が違うので、比較するのはナンセンスかもしれませんが、僕には楽しそうにしているオランダ人が幸せそうに見えたのです。
顔と言葉
この写真は、当時クラスメイトが不意に「Look, I'm Japnese.」と言いながら日本人の顔マネをしてきた時に撮影したもの。バカにしてんなぁと笑っていましたが、先程のベトナム留学生の文章を読んでいる時に、ふと、この写真を思い出したのです。確かに日本人は喜怒哀楽をあまり表情に出しませんし、働きすぎなイメージも相まって、なんだか幸せそうには見えません。
ただ、ここで一つ「なんかおかしいぞ?」と思った事があります。それは言葉。 英語は、世界の中でもビジネスに最も使われる実用的な言語で、世界的に見ても比較的覚えやすい。対して、僕達の使う言語、日本語はというと…平仮名、カタカナ、そして無数にある漢字と、覚えるのにはとても厄介な言語です。
例えば、雨がふる音を書きだしてみると、しとしと・ぽつぽつ・ざぁざぁ・とタイミングや強さによって表現が変わります。柔らかさを現す時には、モチモチ・フワフワ・しっとり・ぷるんぷるん・などなど…無表情な日本人が生み出したにしては、表現が自由自在。これ、実は日本語の方が、英語より圧倒的に表情が豊かなんじゃないのか?と思うのです。英語がビジネスに適しているのであれば、日本語は、言葉で頭の中にイメージを湧かせるのに向いている、芸術や自分を表現するのにピッタリな言語ではないでしょうか。もしそうだとすれば、本来の日本人の表情って、もっと違っていた?のかもしれません。
生き事
「仕事が大好きだったのに、いつの間にか嫌いになっていた。」「自分の好きな事がわからない。」街を歩いている人々を見ながら、きっとそうやって悩んでいる人が多いんだろうなぁ…と感じています。僕もその一人かもしれません。そんな簡単に自分の生き方は決まらないかもしれませんが、やっぱり無理をして仕事続けるのは良くないと思います。生き方に即していない仕事はキッパリやめた方が幸せになれると思います。ここ数年こういった話題が上がるのは、その移行期の真っ直中なんでしょうね。
仕事という字は、「仕(つか)える事(こと)」と書きます。これまでの日本人は表情を抑えて、国に会社に仕え、一生懸命働いてきました。そのお陰で経済的にも文化的にも豊かになりました。これは本当に有り難い事で、そこには恩しかありません。でも、これをずっと続ける必要はないと、僕は思っています。仕える事はちょっとお休みして、探すべきは「生き生きできる事=生き(いき)事」の方なのだと。表情豊かな言葉を操る、表情豊かな日本人に進化していきたいものです。
つづく
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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