「革を育てる」という言葉をよく聞きますよね。これまでの私は「育てる」といっても、手入れをするとしてもクリームで磨く程度。使っていく中での、多少の傷や汚れは自分だけの“味”として捉えていました。
ですが、TOKYO LEATHER FACTORY(以下TLFと省略します。)のバッグは「洗って、使って、育てる革。」と書かれています。
革といえば水に弱いイメージがありますよね。「洗える革」があるなんて、想像もしませんでした。洗っていくことで表情が生まれ、育っていく工程をたのしむことができるようです。
これまで抱いていた「革を育てる」に新しい「洗う」という観点が加わって、なんだかワクワクしてきました。
「TOKYO LEATHER FACTORY」は、革のタンナーである「ティグレ」からうまれたレザーアイテムのブランドです。
2021年11月に独立し、現在は加藤雅信さんが一人でブランドを支えています。今回、加藤さんにTLFの「洗える革」を生かしたものづくりについてお話を伺いました。
なかなかお目にかかる機会もすくない「洗える革」という革。どのようにTLFの商品に欠かせない素材になっていったのでしょうか。
「実は、洗える革というものは元々流通していました。初めて扱ったのは、TLFの前にメーカーからの依頼で製品染め加工をメインとしたブランドをやっていたときです。
あるアパレルブランドさんから「ウォッシャブルの革はないか」というご相談を受けたことがあり、現在の「洗える革」であるピッグスエードを提案することにしました。
きちんと製品として使うことができるのか、自分でテストをしていく中で洗うたびに変化する表情がおもしろい!と感じたんです。それをきっかけに、自分たちでも「洗える革」を使った商品を作ることになりました。」
“つくりたい商品“ではなく、”使いたい革“が先にあり、TLFの商品がうまれている。
加藤さんの表情から、商品を通して革そのものの魅力を知ってほしい、という想いが伝わってきました。
そんな加藤さん自身も、今の仕事をする中で革の魅力にのめり込んでいった一人だと言います。
「父がティグレの社長だったので、学生時代にイタリアの展示会に連れて行ってもらったことがありました。その時にみた皮革はどれも上質で、それぞれの生産者のものづくりへの意識の高さを感じ、いつか革に携わる仕事がしたいという思いはありながらも、当時一般的な就職活動をして就職先も決まっていました。ですが、職人の高齢化もあり「手伝ってくれないか」と言われ、職人が困っているのならと職人になることを決めました。」
右も左もわからない革職人の世界へ飛び込んでいった加藤さん。昔ながらの「見て覚える」スタイルが残っている厳しい世界ならではの苦労もあったそう。
戸惑いながらも、しぶとくやり続けていく中で革の魅力にはまっていきます。
「革は、生ものなので扱いが複雑なところがあります。ロットによっても染まり方が全く違ったり、安定させるのがとても難しいんです。ですが、それがおもしろくもあって。手間がかかることや、全くわからないところに飛び込んでみて何かをうみだしていくことが性格的にも好きなのかもしれません。」
革の魅力を伝えたいから、バッグをつくるときには「洗える革」が主役になるようなシンプルなデザインで商品がうまれています。
商品になったときに、形やデザインだけでなく、革そのものを好きになってもらえるようなこだわりが込められています。
「素材の特徴から、このデザインを試してみよう、という切り口で考えるのは元々職人だったからかもしれないですね。「洗える革」は革自体がやわらかくてうすいスエードなので、結びやすくほどけにくい。素材のよさを生かしながら、デザインのポイントにもなる“結び目”を取り入れてみました。
そうしたら2WAYや3WAYでも使える形になって、結果的にお客様にもいろいろな表情でたのしんでいただいています。」
こだわりの詰まった商品を手に取った先にある「使う」という過程。
TLFのバッグはファッションとして持つだけではなく、さらに革を「洗う」という過程も加わることでお客様のライフスタイルの一部になっていきます。それは単なるお手入れではなく、一つの経験となることでしょう。
手間をかければかけるほどその経験が、くらしの豊かさにつながればと加藤さんは願っています。
TLFのバッグは持つだけでコーディネートをぐんとおしゃれにしてくれます。
デザインだけでなく機能にもこだわったラインナップが揃います。
「基本的にスエードのバッグは一枚で使われることが多いのですが、TLFのバッグには裏地もつけているので丈夫。たくさん荷物をいれても安心です。
ショッピングバッグは、TLFの特徴である「結ぶ」たのしみもあり、用途によってスタイルを変えていただけるのでより幅広い方に使っていただけるかと思います。
結び方にもこだわっていて、シンプルなデザインにより映えるよう、結び方を考えました。動画をみながら、慣れてもらえたらうれしいです。」
最近引っ越してきたばかりという事務所には、革を縫うためのミシンや裁断機などの道具が揃っていました。バッグの開発や生産は加藤さん自身が手掛けています。
ものづくりがここからはじまっていると思うとなんだか感慨深いきもちになりました。
押し入れにたくさん詰まった革。この革は試作や、実際のバッグにも使われるそう。
そしてミシンは、ティグレのときにお取引していた職人さんから譲っていただいたもの。
アンティーク感がたまらなくカッコイイ。まだまだ現役のミシンです。サンプルや商品の開発時に使われています。
以前の工場から運んできた、裁断機。クッキー型のような型を使ってプレスする形で裁断することができます。思っていたよりもやさしい裁断でおどろきました。
革の表情をどのようにバッグの中で表現するかは裁断で決まるので、加藤さん自身の手で裁断を行っています。
こうして長く使われてきた道具と、職人としての技術も持ち合わせながら加藤さんのものづくりは続いていきます。
最後に、加藤さんがこれから挑戦してみたいことを伺いました。
「独立したので、素材から開発してみたいです。そして、その革を販売できたらいいですね。製品染めをやっていたこともあり、メーカーさんの気持ちもわかるところがあります。職人時代に感じたことと組み合わせて幅広くできたら、それは自分らしい切り口なのかなと思います。
なにもわからなかった自分にたくさんの技術を詰め込んでくれた職人たちにはとても感謝していますし、とても貴重な経験だったと思います。革についての情報って実はあまり残っていなくて、その技術は職人がやり続けなければなかなか残っていかない。職人たちが言語化しきれていない革の魅力や特性を、自分が言語化、商品化することで伝えていきたいです。」
革の素材本来の特徴を生かしたものづくりには、加藤さんが長年培ってきた革と向き合う技術と思いがこもっていました。
「くらしを豊かに」をモットーに、これからさらに広がっていく活動をたのしみにしたいと思います。
加藤さん、ありがとうございました。
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