コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。
嫌いな名古屋へ
毎年12月になると「1年早いですねぇ」と決まり文句のように言っていますが、体感的にあまりにも早いので、この時期の時間って実は”リアルに短いんじゃないか?”と疑っている今日この頃です。時間という概念を生み出したのは人間ですし、時計を発明したのも人間。時間は人間が造ったルールにすぎない。なので、やっぱり間違っていた!なんてことも往々にしてあるわけで。冬だけ実は1日は23時間だったりするかもしれません。
質問
東京や地元とは離れた都市に住んでらっしゃる方にお聞きします。
「皆さんは一生そこに住みますか?」
ふとテレビで目にしたこの質問に、なんだかグサッときてしまって皆さんにも聞いてみたいなと。東京や都心部に住んでいる地方出身者は、なんと約半分。僕もその一人、愛知県名古屋市の出身で就職を機に上京して15年が経ちます。上京した理由は、東京に対する憧れはもちろんですが、「名古屋が嫌で、出たかった」というのが主でした。当時は留学先から帰国して、名古屋にそのまま住み続けるのがどうしても嫌で、東京の就職先を探し続ける日々だったのです。
都会の顔をした田舎
愛知県と言えば、、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と、3人の天下人を輩出した戦国三英傑の地。日本三大都市圏でもあるため、街は賑やかで都会という感じです。戦国時代譲りの勝ち気な気質と、金メダルを噛んじゃった名古屋市長(笑)、味付けの濃いグルメも重なって、なんだか「こってり味噌な県民性」。これが当時20代前半の僕には耐えがたい位にダサく見えてしまって。こんな所にいたら将来お先真っ暗だと…。
名古屋には、PARCO・Apple Store・ハイブランドのお店など、トレンドを感じるためのお店は一通り揃っており、住んでいる分には東京や大阪とあまり大差がありません。実はこれが大きな問題点で、僕はよく他県の方に紹介する際、少々厳しい言い方ですが「名古屋は都会の顔をした田舎です。」と伝えています。ずっと東京の真似をしながら都会ぶっているうちに、自分達の足元にある歴史や本当の価値を忘れてしまい、新しい事を起こそうという精神力を失った永遠の三番煎じだと思うのです。
現に20年前は多少盛り上がっていた名古屋独自の音楽やアートなどのカルチャーも、今ではどこかに消えてしまいました。若手のアーティストなども見る機会が減った気がします。それでも、暮らしのスタイルは一応東京みたいに都会的なので、誰も不安を覚えることはありません。外見ではなく、内面がなかなか発達していかないこの県が僕はずっと嫌いでした。
嫌いはヒント
そんな嫌いな愛知県に、数年前から脚を運ぶ頻度が増えてきたのです。子供達を祖父母に合わせるために帰省をしたり、母校の美術大学から非常勤講師として招かれるようになりました。子供達は僕が嫌いだった名古屋が大好きで、帰る度に味噌煮込みを食べ、僕が子どもの頃からある老舗のデパートがお気に入りで、名古屋と聞くだけで満面の笑みを浮かべてワクワクしている。都内に連れて行ってもここまでテンションが上がる事はないので、彼らにとっては東京より名古屋の方が上なんでしょう。
そんな子供達を観察している内に、僕の心情にも変化が訪れます。「なぜこの子達はこんなに名古屋にキラキラできるのだろうか?もしかしたら僕が見落としている何かがあるんじゃないか?」と。そんなことをうっすら考え始めて数年。最近、名古屋の景色の見えない部分が見えてきました。
見向きもしなかった地元の本屋が駐車場になり、商店街は半分が住宅に建て替えられ、姿を消ししました。ずっとあると思っていた飲食店が潰れ、気がついたら周りには大型商業施設ばかり。僕が嫌いだった物や場所、それこそが東京にはないもの、そこにしかないものだったのです。もしかすると今子供達が楽しんでいる場所や物も、何とか残っているだけでいつ消えてもおかしくないのかもしれません。バカにしていたご当地名物も、なくなってしまうかもしれないと考えたら、それは別の話。心が寂しくなって、何とかしてあげたいという気持ちが芽生えてきます。
嫌いなものでも、なくなっちゃ、ダメなんです。
嫌いだった場所へ
「なんであんな山奥にあるんだよ!」と、通学するのがあんなに嫌だった母校の大学を久々に訪れた瞬間、こんな気持ちになりました。「子どもを連れて来たら喜びそうだな。」と。芝生を駆け回り、大声で叫んでも迷惑にならず、どこで絵を描いていても、人目を気にしない。都内ではできない事だらけ。
嫌いだった場所。
それはきっと、これからも守らなきゃいけない場所。
僕は、そこに育てられたのですから。
あなたには地元の嫌いな所、ありますか?
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
ストア紹介
KOZLIFE
「LOVE FOOD LOVE LIFE」をモットーに、北欧の豊かな暮らしをお手本にしたインテリア、キッチン雑貨、ファッションのお店です。
自分たちが実際に使ってみて本当に「良い!」と思ったモノをセレク...もっと見る