コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。
話したくない沖縄の旅 ーなんくるないさ編ー
楽しい旅の終わりはすぐに訪れます。あっという間のシーズンだったけれど、今回で「旅」は最終話を迎えます。ひょんなお誘いから始まった、沖縄旅行。旅もままならなかった去年の分も、とバケーションを楽しんだ後、さぁやってきたデザイナーさんとのお食事会当日。一点の曇りもない日差しを燦々と浴びた木々達が、素敵な建物と共に歓迎をしてくれました。ちょっと緊張した面持ちで階段を一段一段と登り、ガチャッと扉を開ける。ここまでがこの間のお話しでした。
10年ぶりの再会
「どうもー、こんにちは~!」いつもよりちょっと張った声で、挨拶をすれば「いらっしゃーい!」「お久しぶりです~!」と久々の再会を喜び迎えてくださる皆様。スタジオ兼ご自宅の内装は沖縄の暑さを吹き飛ばすようなミニマルさ。つべこべ言わずにまずはビールでも、と、はい、いただきます。
10年ぶりの再会なので、積もる話は山とあり、缶の中のビールと共に、時間がスルスルとなくなっていきます。さっきまで薄暗かったはずなのに、既に外は真っ暗。
「はい、お待たせしました、ゴーヤーチャンプル~。」机にドン!と置かれた大きなボウルには、スポットライトが当たり、ゴーヤの緑は鮮やか。豆腐の白が眩しい。これまでゴーヤーチャンプルーは数多く食べてきたけれど、沖縄の方がご自宅で作ってくださるゴーヤチャンプルーは初めて。具材も味付けもシンプルで、ざっくり混ぜたくらいの方が美味しいそうです。肝心の味は…冗談抜きで、太陽の味がしました(笑)。その地方で取れる食材をその場所で食べる、しかも贅沢にも、その土地の人に作って頂いて。そうする事で食材に注がれたエネルギーを「ピピーン!」と舌が脳が感じるんです。漁船に乗って釣った魚をその場ですぐ食べる、あれと似ています。地球を食べている感覚とでも言いましょうか。そりゃ絶対に忘れない味になりますよ。
これは、タダオゴールドというパイナップルらしく、玉城農園の玉城忠男さんだけが作れる品種とのこと。4~5年かけて一つ一つ慎重に育てており、大きくて甘みがとても強く、香り高い愛情たっぷりなパイナップル。数は少ないですが、毎年夏には流通するそうなので、通販などでも購入できます。
沢山食べ、沢山笑った夜でした。結局、肝心の“なぜ僕を呼んだのか?”というのは聞けず仕舞いだったのですが、楽しかったし、「分からないままの方が意味がある。」と思う事にしました。それより、尊敬する先輩を前に、10年前は緊張をして上手く喋れなかったのに、今回は全く臆することなく対等に話せていた今の自分に、ちょっと笑みを浮かべて帰路につくのでした。
終わり良ければ
約1週間の沖縄旅行。家族も満面の笑みとなり、久々に良い思い出ができました。「また沖縄に行きたいなぁ。」と子供達も呟いています。「楽しかったね~。また、行こうね。」そう返事をしながら荷ほどきをしていると、あの方々へお礼のメッセージを送らなければ!と気がつくのでした。
“先日は、貴重な時間を作って頂きありがとうございました!
沖縄での再会、素敵な料理の数々、最高でした!そして、ご馳走様でした。
いまだに、なぜ僕の名を…との思いもよぎりますが(笑)、分からないままの方が意味がある気がしています。また次回お会いできる時に、色々ご報告できるように進んで行きたいと思います。また沖縄に訪れる際は、ご連絡させていただきますね!”
しばらく沖縄モードが尾を引きつつ、たまに写真を見返したりしながら、いつもの日常へと戻っていきました。とある日、メールの返信が届いたのです。
文面を読んだ瞬間、久々に時が凍りました。あまり詳細を書いてご迷惑を掛けてしまうといけないので事細かにはお伝えできませんが、要するに「人まちがい」だったのです。
・・・
おぉ・・・
どうやら、若い人材で誰かいないか?という話があり、全然違う人だったはずが、似たような名前の僕になってしまっていたとのこと。酔っぱらいながらの会話だったようで、大変申し訳ありませんでした。と。
「おぉ…。」としか反応できません・・・これは。
知らない間に、頭の中では「涙そうそう」が流れ始めています。古いアルバムをめくる気力なんてございません(笑涙)。楽しい思い出が、かき氷のように溶けて、エメラルドグリーンの海に流されていく。
そりゃそうだよな。僕なはずがないんだよ…と自分自身に言い聞かせようとしますが、悲しみにちょっとした苛立ちが混ざって、それが増殖していって、気持ちの収拾がつきません。途中沖縄を嫌いになりそうになりましたが、家族旅行としてはとっても楽しかったので、そこまで否定したくはありません。AKBの前田敦子さん沖縄版のような人が夢に登場し「私の事は嫌いになっても、沖縄の事だけは嫌いにならないでください!」と訴えかけてきたり(笑)。凹んでは収まりを繰り返し、落ち着くまで1週間程かったでしょうか。
人生は旅のようなものである
これまでの僕であれば、自分の納得するまで相手とコミュニケーションを重ねる事が多かったのですが、今回はそうじゃないなと。誰にでも間違いはあるし、「それを受け入れる器量を備えろ」と神様に言われているような気がして。なので、笑い飛ばすことにしました。なんくるないさ~と。そして、家族にも話さないことに決めました。
ひとつひとつの出来事を気にして、もじもじしていないで前に進め。どうしたらこれをプラスに持って行けるか考えろ。そう思うようにしたら、凄く気持ちが楽になったのです。そして自分自身少し成長した気がして。なので、一旦は心にしまっておこうとしたけれど、誰かの何かのきっかけになるかもしれないので、今こうして文章にしています。
この間違いのお陰で、家族に思い出ができ、久しぶりの再会をし、楽しい時間を過ごさせて頂き、その方達の記憶に残れた。そして少し成長できた。そんな沖縄が、もっと好きになりました。本当、人生って旅のようですね。
ありがとうございました、また行きます。
シーズン6「旅」おわり
和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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