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love letter from K. Season7「design」なくなる

ストア:KOZLIFE掲載日:2023/03/23
コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。

なくなる

さて、今回はどんな話を書こうかなぁ。そんな事を考えながらデスクに向かい、淹れたてのコーヒーカップに手を添えると、何か感触がおかしい。よく見ると、カップの取っ手が欠けている。あーあ、ついにこの時が来たな。ま、ほぼ毎日使っていたから仕方ないか…なんて自分を納得させながらも、よくよく考えてみれば、このカップ、とうの昔に廃番になった物で当然もう売っていません。ちょっと多めの容量と、手に程よく引っかかる取っ手の形。体に染みついた使いやすさは、慣れてしまうとなかなか他では代用がききません。仕方がない、別のお気に入りをまた1から探すしかないか…と部屋を見渡せば、周りにはそんな物ばかりが並んでいます。

なくならない財布

新しい物がどんどん誕生する一方で、世の中から消えていくプロダクトは、何の物音も立てず知らない間にいなくなっていきます。わかっていても、普段はそんな事を気に掛ける由もなく、壊れた時に初めて「あっ、同じ物はもう無理なのか」と気づかされるのです。だからといって、ロングライフデザインな物を優先的に買うっていうのもなんだかトキメキがないというか、そこまで用意周到に暮らしていくのも肩が凝ってしまいそうで面白みに欠けます。

ずっと同じ物が使える「なくならない安心感」と、その都度新鮮さも楽しめる。そんな理想なプロダクトを数年前から使っているのでご紹介します。
「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」のウォレットシリーズです。サイズは、長財布からカードケースまで豊富。僕は、あんまり荷物を持ちたくないタイプなのでコンパクトウォレットを選びました。至ってシンプルなデザインではありますが、思ったより丈夫にできていてジッパーの強度も充分。10年使い続けている人もチラホラいるようです。革の素材、カラーのバリエーションも豊富で、1~2万円と、その時の気分に合わせて手を出せる価格帯も嬉しい。

このシリーズは既に30年程は続いていて、今までに100を越えるアイテムが発表されてきました。現在でも、毎年2作以上の新シリーズを発表しており、その挑戦的な素材使いはコムデギャルソンの精神が宿っています。基本的にはスペインで製造され、ディオール、シャネル、ロエベなどのラグジュアリーブランドと同じ工場を使用。形は変わる事なく定期的に新しい素材や型押しの物がリリースされています。

何げなく言葉に出ましたが「その時の気分」というのがポイントで、そろそろ替え時かなと、お店に行くと必ず新作が置いてあるのです。同じ形で使い勝手が変わらない安心感と、多分なくならないブランドということ。だからこそ、今回はちょっと趣向を変えてエナメルにしてみようとか、型押しにしてみようとか、まさに「その時の気分」で選べる。そして今買ったものを、いつか買い替えたくなっても、この財布のシリーズはずっと続いていく。だから、次買う時はこれにしようかなと予測することもできますね。「こうやって使い続けてね。」が10年先まで描いてある。僕はこれこそ、ユーザーの事を真に考えている理想のプロダクトデザインだなと思うのです。

信頼関係のデザイン

ずっと同じものを使っている感覚で、新しいままでいる、新鮮なままでいる。iPhoneなどを筆頭に、電化製品にはアップデートという概念が身近にあります。このエッセイにも使用しているリコーのカメラ「GRシリーズ」もコンパクトデジタルカメラの全盛期の2005年の発売時から使い始めて、もうすぐ20年。既に5台程乗り継ぎながら、今でも愛用し続けていられるのは、作り手の「絶対にやめないぞ」という気概いに僕自身も共鳴しているからだと思っています。
公式サイトにはこうあります。“GRの歴史は、反骨の歴史ともいえます。新製品ラッシュの中でも2年間モデルチェンジをせず、ファームウェアによる機能拡張でカメラの成熟を図る。一見すると地味で無骨、モデルチェンジしても代わり映えしないデザイン。それらは、ブームやトレンドに対してのアンチテーゼでもありました。そのバックボーンにあるのは、写真を愛してやまない人たちの声。その意味では、GRの歴史は、写真を中心に繋がるユーザーと作り手の対話の軌跡です。GRである限り、常に本質を見極めて普遍的な価値を創っていくことを目指した、作り手の情熱の軌跡でもあるのです。”

世の中にカメラは数多くあれど、こんなに作り手と使い手が共鳴しているカメラは珍しいと思います。電化製品は、例えば2023年モデルと最新を唱うことで購買意欲をそそるようにしているビジネスですが、それに乗ってはいけません。最新であることよりも、メーカーが、ちゃんとそのプロダクトをアップデートする、そこに注力できる覚悟があるかどうか?を僕らは選んでいかなければいけません。

アップデートできない

電化製品はアップデートの感覚をイメージしやすいですが、アナログな物はどうでしょう。
例えば、お皿は3年に一度、新しいモデルがリリースされるでしょうか?
例えば、カバンは2年後に、ちょっと使いやすくなったバージョン2.0を見る事はあるでしょうか?
例えば、結婚指輪は、10・20周年記念で同じシリーズの新作を買うことはできるでしょうか?
どれも、簡単には探せないのは想像がつきますよね。

なぜ、アナログな物はアップデートできないんでしょうか?不思議ですよね…。きっと同じ形でバージョン2を開発するよりも、全く違う新商品を作った方がビジネス的にも好都合だからでしょう。そして、アップデートできなかった物達はどうなるでしょうか?答えは、廃番になって、捨てられるのです。

僕はできれば、同じシリーズの結婚指輪を10年毎に買い替えたいなぁ。「今回はゴールドにしようかな」なんて笑い話をしながら。

つづく
和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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