コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。
味の記憶
ようやく本格的に寒くなってきましたね。さて、これまで2シーズンに渡りテーマを変えてエッセイを綴ってきました。今年に入り、がらりと変わった「時間」の感覚、そしてそこから暮らし方が変わり「自分」について色々と考えることが多かったように思います。そして今、まさに今何を想うかというと目の前の当たり前の事を普段通り噛みしめられる事に改めて喜びを感じています。そう考えていたら今僕の頭の中にひとつの言葉が浮かんできました。「やっぱり食べることってどこまでも楽しめるよなぁ」と。ということでSeason3のテーマを「食べること」としてスタートしてみようと思います。
食の世界は果てしない
人間の三大欲求のひとつである食欲。そう、私達は食べないと生きていくことはできません。食の世界は果てしなく、一度興味を持てば沼のように抜けられない。作る人がいて食べる人がいて、大勢集まれば楽しいし、1人で料理と向き合って堪能するのもまた良し。食物は地球の恵みですから、季節や地域によって様々な物が存在していて、まだ見たこともない料理も沢山あるようです。
冬がやってきます。年末年始もあり家で食べることも多くなってくる季節。帰省などであまり大勢で集まらないようにと言われていますが、実家のこたつでつつくお雑煮、お正月特有のあののんびりした時間は最高ですよね・・・。記念写真なんかを撮ったりして。
食・写真・旅
ところで、人類はいつから食事の写真を撮るようになったのでしょう?昔のアルバムを開くと食事会の記念写真はあったとしても、料理だけの写真というのは少なかったように思います。やはりデジタルの写真が登場してからというもの、写真を後で見返して楽しむ事が劇的に増えました。そしてスマートフォンがそれを更に加速させたのでしょう。記録と食事というのは切っても切れない関係になったのです。そしてもう一つ。記録にとってなくてはならないのが、旅。そして旅と食も楽しみのひとつですよね。この3つがグルグルと周りながら道中をそして帰宅後も楽しませてくれます。
5年程前ですが、留学していた地オランダとロンドンへ10年ぶりに訪れました。旅の目的は特に観光をするでもなく、気に入っていた街を訪れたり旧友に会ったりしながら10年の歳月を感じてみようという事でしたので、割と自由な時間が多く1人でブラブラと色んな所を歩いて廻っていました。
ロンドンの街並みは変わらず、建物も昔のまま。ひとつ大きく違っていたのは、地図を持って歩いている人がいない!有名な地図「AtoZ」という物がロンドンにはありますが、それを持っている人がほぼいません。代わりのその手にはスマートフォンのマップ。僕もナビゲーションを使い今までよりも快調に旅をこなすことができました。でも変わっていたのはテクノロジー位で、曇り空の下のロンドンの匂いや雰囲気は何も変わらない。
ブロードウェイマーケット
土曜日の昼は各地でマーケットが開かれるのが昔からのロンドンの伝統。この日は日中の予定がなかったので宿泊しているホテルの近くのブロードウェイマーケットへと行くことに。ロンドンの地元民で賑わい色々な美味しいフードマーケットが連なると聞いていただけに、着いてみれば冷たく澄んだロンドンの空気の中に、野菜や魚介、ハーブや肉を焼く匂いが歩く度に代わる代わる嗅覚に押し寄せてくる。店の前で立ち止まると「これ食べてって。」と、何度も試食させられたのを覚えています。写真と味覚の記憶とは恐ろしいもので、これを見ていると鮮明にその時間が蘇ってくるのです。
ランチは、この中で何か買って食べようと思っていたので目星を付けていたSpinach And Agushiというアフリカ料理店。どうやらガーナにインスパイアを受けたシチューやカレーが人気のよう。日本ではまず食べたことがなさそうな料理なのでお薦めを店員さんに聞いてオーダー。5.5ポンドを払って近くの公園で食べることに。
頼んだシチュー?カレー?は、ピーナッツとチキンを煮込んだものがライスの上にかかっておりホウレンソウの炒め物が添えてあります。味は・・・タイのピーナッツ系のカレーに似ているんだけど全く辛くなく甘いくらい。逆にホウレンソウがかなり辛い!これを混ぜて食べると、おぉ、なるほどそうきたか〜と唸りたくなる美味しさ。味わったことのない方向性の「美味い」ですが、いやいやこれはアリです。身体がどんどん温かくなる。 ゆっくりと公園でランチをしながら周りを見渡せば、至る所で皆が同じようにくつろいでいます。歌を歌っている人もいれば、犬と寝ている人まで。・・・・いやぁ本当に自由だ(笑)。
味と記憶の旅
旅で写真を撮るとかなりの枚数撮影してしまいます。年月が経つにつれ、鮮明に覚えていた記憶はひとつづつ抜けていき、5年経って改めてその写真達を見てみると、結構忘れていることも多い。ただ面白いことに、その時はメインイベントでなかったのになぜか色濃く覚えている写真があります。それがふとした時の食事、食べながら見た景色の写真です。美味しかった不味かったもそうですが、意外にもその前後に起こった出来事、聞こえた音なんかも思い出してしまうんですよね。元々僕自身、料理の写真を撮るのはあまり好きじゃない方だったのですが、こうやって遡って記憶を蘇らせてくれる料理の写真って魅力的だなって。皆さんも少し前の写真などを眺めて、当時の味と記憶の旅に出かけてはいかがでしょうか。
つづく
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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