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love letter from K. Season3「食べること」 なにもしない -後編-

ストア:KOZLIFE掲載日:2021/02/05
コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。

なにもしない ー後編ー

「今年は早かったなぁ」と年末に話していたのも束の間、もう1月が終わってしまいました。年を追う事に時間が過ぎるのが早く感じるのですが、実際どうやら年々地球の自転がスピードアップしているそう。専門機関によれば、2020年は2019年より短かったとのこと。1日の長さが変動することは珍しい事ではないようですが、予測では2021年は更に短くなるとされており、もしかすると1年から1秒を差し引く必要が出てくるかもしれないらしい。時間という概念は人間が生み出したものですから、地球がそれに従うはずはありません。感じているのではなく「実際に」1年の長さは短くなっていっているみたいですよ。

ニクセンの続き

前編では、何もしないというオランダのリラックス法「ニクセン」を紹介しました。あれから生活の中で少しだけですが、ボーッとする事に対して嫌悪感がなくなりました。そして、僕の場合は1日の終わりにお風呂でニクセンするのが良さそうだということが分かってきました。今まではスマホを防水ケースに入れ、お風呂で動画を見たりしていたのですが、それをやめお風呂に入って何もせずに頭を空っぽにして「無の状態」を作ってみることに。今は脳の整理整頓の時間だと言い聞かせ、何も考えずにしばらくいると、頭の中に色々な感情が降りてきます。
「暑い」だとか「運動不足だよなぁ」とか「週末何しよう」なんていう生活の事から仕事の悩みやお金の悩み・・・「靴欲しいな」などの邪念も。色んな感情が出てきては消えて行きます。そろそろ体でも洗うかと、シャワーを浴びて頭をシャンプーでゴシゴシ。と、「あ、今何も考えてない。」その瞬間は突然訪れます。色々な考えが過ぎていった後の空っぽの空間のような感じ。
そして「あ、こういう企画あったらどうだろう?」や「新しい商品のネーミング」などがフワンとシャボン玉のように頭の中に浮いてきます。もちろん、大した事ないアイデアだったりすると、そのまま消えていってしまいますが、スマホを見ていたら、到底体験できなかった感覚だろうなと思い、今はなんとか毎日できないかと模索しています。

それは休憩ではない

ニクセンの本にはこうありました。“何か時間が出来るとついついスマホを手に取ってしまっている。SNS を覗いて友人のコメントをチェックしたり、フィードに「いいね!」を押す事を「休憩」にしている人は多いかもしれませんが、これは実は休んでいるようで休憩になっていません。本当にニクセンするためにはスマホやタブレットから意識的に距離をおくことも大切なのです。"と。

現代人はスマホ依存症だと言われています。そして、メッセージや情報を逃しはしないかという恐怖に捕らわれています。メッセージやリアクションがスマホに届く度に脳からはドーパミンが出ており、知らない間に手に取ってしまっている。確かに、僕にも自覚があります。
僕達はいつから画面を見ながらご飯を食べるようになったんでしょう?カフェでのランチはスマホやタブレットを見ながら、夕飯時にニュースを必ず見ている事に気がつきます。そして普段テレビを見ない子供達はタブレットでYoutubeを見ながらご飯を食べてしまっている。さすがにそれはダメだろうと、なるべくご飯の時は見ないように言い聞かせますが小さい子は言う事を聞いてくれない事もしばしば。「Youtube~!」と大声で泣き叫ぶのです。叱りながら、親はテレビでニュースを見ているのですから・・・原因は親ですね、きっと。

会話のない食卓

夕食時にテレビを見ると、会話が極端に減ります。それって家族全員で食事をしている意味があるだろうか?と思い始めました。無言で画面を見ながら食べるなんて、街の食堂じゃないか、と。これはなんとかしないといけないと思い、まずは物理的にご飯の時間はインターネットに接続できないようにしました。そしてテレビはつけない。
「今日小学校で何があった?」「幼稚園の給食は何だったの?」などと話題を振ってみます。が、会話は持って1分。なんとか自発的に話すようにならないものか・・・と数日悩みました。やっぱり家族の食卓は笑い声が欲しいよなと、ふと「何でもいいんだけど、最近自分に起きた、笑える出来事とかあったりする?」と聞いてみたのです。
と、長女が「今日の給食が、ハヤシライスだったんだけどね。付け合わせのシラスサラダのシラスが(多分先生が間違えて)白いご飯にかかってたから、ハヤシのルーをかけずに別々で食べたのよ。ごちそうさま、をしてから”やっぱりあれって野菜にかかってるのが正解だったんじゃない?”と思ったけど、友達に言えなかったんだよー。(笑)」というシュールな話をしてくれました。すると長女が「次誰が話すの?」と。この展開どこか見覚えが・・・「人志松本のすべらない話」だ。

サイコロがなかったので、とっさに箸を回してルーレットにして止まった所で刺された人が話すルールに。内容自体はごく普通だったりしたのですが、これだよ僕が欲していた会話のある食卓は、と素直に喜び、楽しんでしまいました。

スマホをすてて、箸をとれ

食後に奥さんが「普段面白い出来事を探そうと思って生活してないから、話そうと思っても全然出てこないもんだね~。」と。「もしさ、学校でなんか面白い出来事あったらまた教えてよ。」と子供達に言うと、見つけてくる!と目をキラキラさせていました。その瞬間、今まで依存していた「画面」から遠ざかる事ができた感覚がした。僕自身も、ニュースを見ることで毎日情報を得ていたつもりでいましたが全然違っていたみたい。新規感染者数なんて1週間分まとめて見れば良いんだなと、今は思う事ができそうです。

シンプルに、箸を持って食事を楽しむ。
それ以外は何もなくても大丈夫なんだと気づかされました。
味わって、箸置きに箸を置いて、話して、笑って、また箸を持って食べる。
それだけで充分なんだと。

つづく
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和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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