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love letter from K. Season4「ヒト」 進化するしない

ストア:KOZLIFE掲載日:2021/06/11
コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。

進化するしない

前回からヒトというテーマで新しいシーズンがスタートしました。何を語るにも、まずは僕達の住む地球の事を知っておかないといけないだろうと思い、約6400億年の歴史を遡ったわけであります。人類の歴史はその壮大さからすれば、ほんのゴマ一粒位の小ささだということがわかりました。そのままの規模感のお話でも面白いのですが、今回からはもう少しスケールダウンして、等身大な視点で書いて行ければと思っています。

エボリューション

前回のエッセイで、「現代は特別な時代である」というお話をしました。おそらく地球の歴史上最も早いスピードで様々な事が進化しているのが今の社会。例えば、自分が結婚したというニュースを友人に届けるとします。インターネット上のメッセージであれば数秒、手紙を書いて送ると約2日ほど、江戸時代の通信手段である飛脚の場合、届けてくれるまでに30日程度かかったそうです。僕らはあまりその自覚がありませんが、当時の人々から見た2021年の僕達の生活は次元を超えた未来人そのものでしょうね。手のひらサイズの良く分からないガラスの板のような物体を見て、誰かと話をしている姿ですら、僕が小学生の頃には遥か遠い未来の出来事だと思っていましたし。
オリンピックの無観客観戦などが話題になっていますが、おそらく近い将来、触覚や嗅覚もデジタルデータとして送受信できるようになるでしょうから、そこに行かなくても完全に行ったのと同じ位の臨場感を味わえるように、同時に選手もスタジアムで観客が入っているのと同じ声援を浴びながらプレーできるようになるでしょう。身体的に障害を持つ方も、距離が遠くて行けない方も、皆平等に観戦ができ、リアルな状況と変わらないとすれば、あなたはどっちを選びますか?

二季の国

進化=変化だと捉えると、何かが生まれたりという一方で、なくなるという事もまた忘れてはいけません。この30年で日本から完全に消えてなくなりそうなもの、それは「四季」です。1年の平均気温で言えばそこまで変化がないように見えますが、体感的には春と秋が少しづつなくなり、四季が夏と冬だけの「二季」に変化をしてきています。僕がファッションに目覚めた中学生の頃、よく雑誌を開いては“春の装いは薄手のトレンチコートから!”なんて見出しを見て、こういう服が似合う大人になりたいなぁなんて思っていました。が、今はどうでしょう。薄手のコートやロンT、羽織りシャツなどはあまり着るタイミングがなくなり、Tシャツの上にパーカーなどアウターを脱ぎ着して調節するようなスタイルが多くなりました。昔は春というと1ヶ月半位はあった気がするんですけどね…
世界中を見渡しても、日本は春夏秋冬の境目がはっきりしている珍しい国です。僕が住んでいたオランダには春はありませんでした。冬からいきなり夏に突入する感じです。季節の変わり目を肌で感じながら「春だなぁ」と散歩する人達をニュースで見て、日本が羨ましかったのを覚えています。しかしそんな姿は過去の話。日本気象庁は、鳥の初鳴きや植物の開花など、季節の移り変わりを告げる自然現象の観測の9割を今年いっぱいで廃止するそうです。こうやって僕達の目の前から季節を感じる存在がひとつひとつ消えていく。なんだか勿体ないやら寂しいやら。

JAPANESE IKEA

日本人にとって大切な価値観が失われていく。進化の上ではしょうがないのかもしれませんが、実はそうでもありません。これは、僕が個人的に実践している事のひとつで「JAPANESE IKEA(ジャパニーズ・イケア)」と呼んでいます。家具の寸法は年々ヨーロッパサイズが一般化してきており、例えば机の高さは74cm前後というのが今は主流です。日本人の平均身長が伸びてきているとはいえ、欧米の人達の方がまだまだ大柄。輸入家具ならまだしも、国産の家具までそこに合わせて設計をしているのです。少し前にダイニングテーブルを購入し使っていたのですが、どうも肩が凝って仕方がないので原因を色々調べてた所、机の高さが怪しい事に気がつきました。そこで、脚を木工加工所に持って行き4cm程切ってもらったのです。
再び脚を取り付け、70cmになったテーブルを使い始めて2、3日。嘘のように肩が凝りません。また、部屋の中の圧迫感が減り空間が広く見えるという効果も。それからというもの、切れるテーブルや椅子はできる限り、日本人の身長にあった高さに加工をして使っています。やはり身体にフィットするという居心地のよさの感覚は、家具がどれだけ進化しても身体的に刻みこまれているんでしょうか。床座の歴史を知っている日本人のDNAが「そこまで変わってもらっては困る」と引き戻そうとしているのでしょうかね。現に使いやすく感じている訳ですから、実に面白い。

進化するしない

江戸時代の人から見たら2021年は未来に見えますが、「お!?意外に変わってないじゃないか。」と言われる物のひとつに傘があります。折りたたみや機能的な進化はあっても、見た目はそれほど変わらない。世界に目を向けると、イギリスでは傘をささない人が多く、傘=ダサいと思っている人さえいます。またオランダだと、風が強すぎて傘は役に立ちません。一方、日本は結構傘が好きな国民性のようです。

雨が降ってきた時に、さっと傘をさすあの佇まいが美しい。もちろん機能的には折りたたみも便利ですが、所作が綺麗で粋なのは断然長傘です。随分昔から使っている kura commonの傘。どんどん壊れていく他の傘を尻目に丈夫に今でも活躍してくれています。

使いやすい物は適応し生き残り、使いにくい物は駆逐されていく、それは、まさに進化のようです。変わらない良き物を、父の日に贈ってみるのも良いかも…

つづく
(次回は6月25日更新予定です。お楽しみに!)
この記事で登場した商品はこちら▼
kura common|傘 Umbrella Henning Koppel(ヘニングコペル)
kura common|傘 Umbrella Henning Koppel(ヘニングコペル)
5,720円
和田 健司
和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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