コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。
見え隠れ
みなさん、いかがお過ごしですか。「今だ!外に出よう!」と言わんばかりに街に活気が戻ってきていますね。前はこうだったんだと懐かしみながら、僕も適度に楽しませてもらってます。どこのレストランに行こうかと食べログで自分のお気に入り店舗リストを見てみたら、三分の一位が閉店していたのにはビックリ。日本は世界中のグルメが楽しめる外食大国ですから、その輝きを損なわないようにお金を飲食業界に落としていかないと。
シーズン5が始まります
さて、今回から新しいシーズンに突入します。ドラマのように1クール10話ほどで読み切れるように開始したLLFKもいよいよシーズン5。ここまで読んで頂いている方々、ありがとうございます。またたまたまこのページを目にした方も、メニューページにテーマ別にアーカイブがありますので、ご興味のあるテーマだけ読む読み方もオススメですよ。
シーズン5のテーマは「好きと嫌い」。人間は感情が絶えず変わり続ける生き物です。昨日嫌だなと思った事も、今日になれば別にそうでもない、むしろ良いかも…なんてことは良くありますね。”好き”と”嫌い”は紙一重で、そこを行ったり来たりするのが面白い。自分の意見を言いづらいような時代になってしまったからこそ、誰もが持っているこの2つの感情を敢えてはっきりと言う事が大切になるかなと思い、このテーマを選びました。と言ってもいつも通り、面白可笑しく書いていきます。
嫌いな人
変なタイトルで始まりましたが、ケンカをしたとかそういう話ではありません。あなたには嫌いな人はいますか?これも変な質問ですね(笑)。実は以前、同じ業界のデザイナーさんで少し鼻に付くなと思っていた方がいらっしまいました。嫌いではないんですが、その方の作品を見ているとあまり良い気分にはならない。なるべく見ないようにしてました…がなんか無償に気になる時があり近況を調べてまた変な気分になったり。何してるんでしょうね(笑)。
とある日、急に「嫌いな人とサシで飲みに行ったらどうなるんだろう?」と思い立ち、すぐに直接コンタクトを取りました。予定はすぐ決まり、相手のスタジオに遊びに行かせて頂きつつご飯でも行きましょうという事に。当日までは、なんだかんだで結構緊張していまして、聞く質問とかも幾つか考えておいたり、最悪言い合いになって途中で帰るケースも想定したり(笑)。
結論から言いますと、終電ギリギリまで話し込む位の非常に楽しい会でした。作風からはイメージできない、優しく人間味のある方だったのと、同じ年代からくる時代に対しての見方も共通する部分が沢山あって大盛り上がり。ホントあの杞憂は何だったんだろう(笑)。それから時々お会いしたりするようになりました。味を占めた僕はその後、色んな”苦手な人”に会うというモードに入ってしまい、なかなか体験できない事の多い期間を過ごしました。
ちょっと嫌いだと思っていた人が、実は全く逆で、むしろ大好きのサイドにいるという事がわかりました。嫌いという気持ちの中身は一種のジェラシーのようなもので、きっとそれは自分に足りない部分であったりその人と似ているからこそ抱く感情なのかもしれません。「嫌いと好きは紙一重。」僕の人生に刻み込まれた気付きでした。それからというもの嫌いは好きの入り口と考えるようになったのです。
オランダ的
話は変わりオランダの留学時代のこと。デザイン系大学院1年生の最初の作品講評会の場で、自分が結構気に入っていた作品を展示していた所に教授が見に回ってきました。そこでこう言い放ったのです。「あなたの作品は、直感的すぎてイージーすぎるわ。私が大嫌いな部類の作品よ。」と。
I hate(嫌い)と作品に対して言われたのは恐らく初めてで、「えっ…」と驚きすぎて何の感情も持てなかったのを覚えています。そのあとヘビーに落ち込んだのは言うまでもありません(涙)。
欧米の大学は日本と逆で、入るのは簡単な反面出るのがとても難しい。その大学院は100点中51点以上はグリーン(合格)、49点だとレッド(不合格)。50点はなく、グリーンかレッドの2色しかない。2回レッドが続いたら強制帰国させられるといった結構厳しい場所でした。これがオランダ式なんだと言い聞かせ、レッドを取ったこともありましたが、なんとか卒業までこぎつけました。
卒業展示会の時に作品の前に立ち、また先生が順番に回ってくるのですが僕に「大嫌い」と言ったあの先生がツカツカツカっとやってきてこう言い放ちました。「あなたは成長したわ。このコンセプトは素晴らしい!私はあなたの作品が大好きよ!!!」と抱きしめられたのです。あまりのオーバーアクションに恥ずかしくて、泣く暇はなかったけれど、ジーンときて、本当に嬉しかった。
嫌いな物は嫌いとハッキリ伝え、好きなときには相手を抱きしめるくらい感情を伝える。後々これがとってもオランダ的な感情表現だということはわかるのですが、こんな体験をしたのは後にも先にもこの時だけ。
いいんじゃないかな
現在僕も大学で教える立場として教壇に立たせてもらっています。生徒の作品を見て「いいんじゃないかな」という言葉は良く耳にするのですが、それがGOODなのかBADなのかは先生も生徒もハッキリしていないような気がしています。これは親子や上司部下にもあてはまることで、日本では良し悪しを明確にすることを避けてなんとなく「普通のテリトリー」に入れておけば良いだろうという、事なかれ主義的な面があります。僕はそれでは同じレベルの人材を量産するだけで、そこに成長はないような気がしてならないのです。
100回の「いいんじゃないかな」を言うよりも、
1回の「大嫌い!」と1回の「大好き!!」を包み隠さずストレートに伝える。
僕も、あの先生のように思いっきりそれができるようになりたいものです。
つづく
和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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