わざわざのシュトレンは今年で15年目を迎えます。今回のストアレターでお届けするのは、シュトレンを焼き始めてからの10年間を振り返って、わざわざ代表の平田はる香が2020年に書いた読み物です。
本当に良いと思うものを作るために、一番おいしい時を届けるために。毎年のように改良を重ねながら、わざわざではシュトレンを焼き続けてきました。
これはもうシュトレンじゃない
信じられないことだけど、これは焼いてから1年経ったわざわざのシュトレンだ。1年前に焼いたものを真空パックしたものを10本ほど、常温で保管してテストした。1ヶ月、2ヶ月と段々と開封していき、結局10ヶ月保管しておいたものがこれだ。
口にすると信じられないほどおいしくて、もうこれははっきり言って、シュトレンじゃない。滋養がつまって発酵しきって「なんか知らんけどおいしいもの」になっていて、スタッフ皆で感動しながら食べたのだった。
一番おいしい時を届けたい
元来シュトレンというものは保存性に優れた食べ物だ。それに対してわざわざのシュトレンは砂糖もバターも入っておらず、もちろん添加物も入っていないためどうしても保存性に欠ける。
だけど、熟成させた方が断然おいしい。当時は賞味期限を短くして対応するも、自分たちが一番おいしいと思う状態をお客様に食べていただくことができず歯がゆさを感じていた。また気温の高い地域にお届けしたシュトレンが、賞味期限前にカビが生えてしまうという事象が過去1,2件発生してしまったことがあった。それが数千個のうちの1個だったとしても、改善したかった。
試行錯誤の末、しっかりと真空パックができてさえいればかなり日持ちすることがわかった。この品質テストがうまくいったことで、生産体制を見直すことにした。2017年のことだ。
ベストタイミングの食べ頃で出荷するために、焼成後2週間保存し熟成させたものを販売する。到着したら即食べ頃だ。わたし達が一番おいしいと思う瞬間を、みなさんにお届けしたい。スタッフ全員で力を合わせて、冗談じゃなしに愛を込めている。
その後も毎年品質テストを繰り返した結果、1,2週間だった賞味期限は1ヶ月、2ヶ月と伸び、2020年には6ヶ月となった。例年12月に入ると即完売してしまい「今年も買えなかった」と言われてしまうことも多い。この賞味期限なら11月のうちに購入してもらい、12月まで自宅で熟成させたシュトレンを楽しんでもらうこともできるだろう。
改良、改良の連続
ライ麦の全粒粉を表面にまぶす。白い粉は砂糖ではないのです
パン屋を始めた時に、冬にはシュトレンというものが売れるらしいと人に聞き、なんだそれ?と思っていろんなものを買ってみたが、食べられない。わたしは甘いものが大の苦手で、砂糖でコーティングされたものは一口でアウトだった。ならば、そんな人もいるだろうと卵・バター・砂糖を一切なしでシュトレンを作ってみようと決めた。アレルギーの方の需要もあるかもしれない。
そうしてできたシュトレンは2009年のわざわざの開業以来、お客様に愛されてきたベストセラー商品と言っても過言ではないと思う(個人的にはシュトレンのお陰で店舗を建てられたとも思っていて、心の中でシュトレン御殿と呼んでいる)。このシュトレンを作る決断をした過去の自分に感謝したい。
それから毎年お客様から頂くご意見を参考に、少しずつ改良を重ねてきた。翌年には自家製のドライフルーツも入れるなど少しレシピを変更。そのまた次の年には「焼いてすぐが旨くない」ことがどうしても気になって、届いた当日から美味しく召し上がってもらえるよう酵母量、水分量、焼成を調節し、過去2年よりふっくら柔らかく仕上げた。
そして2012年からは薪窯で焼き始めた。火加減はかなり難しく油断できないが、それまで使っていたガスオーブンと比べて一度に焼ける量が飛躍的に増えた。加えて、薪窯に蓄えられた熱は生地の内側から火を通してくれる。水分量の少ない生地でもしっとりとした質感を保てるのは、薪窯のおかげかもしれない。
その後、ドライフルーツの価格が高騰し始めたときも、販売数を上げることとドライフルーツの配合を変えることで最小限の価格変更に抑えることができた。今も年ごとにドライフルーツは吟味し、味のバランスを変更している。
2020年のシュトレンには新たに大粒のプルーンを入れた。そして、よりドライフルーツを感じられるようにドライフルーツのカットの方法も変更した。オーガニックのココナッツの甘み、ドライフルーツの凝縮された甘み、国産小麦の甘みと、自然の甘さだけで信じられないくらいの甘さを感じられるはずだ。
薪窯で焼くシュトレン
わざわざのシュトレンの製造手順を一部紹介する。より詳細なレシピを知りたい人は、わざわざのシュトレン レシピブックを参照してほしい。このレシピブックは「わざわざのシュトレン レシピブックセット」を買った人だけが読める秘伝の書だ。
シュトレン作りは1ヶ月前、ドライフルーツを白ワインに漬け込む作業から始まっている。
ドライフルーツの甘みだけでは物足りないため、ココナッツで甘みとバターのコクを補う。またシナモン、ナツメグ、クローブと厳選したスパイスで香りをつける。
小麦粉は全粒粉を使用。粉っぽさが残らないように材料が全体にいきわたること、きっちり混ざるようにすることを意識する。
よく混ざった生地は休ませたのち、四角にカットする。
内部に芯を作るように、空気を巻き込まないように隙間なく折り込んでいく。成形したシュトレンは番重に入れ冷蔵発酵させる。
パンの製造作業をしながら薪をくべて、徐々に窯を温める。
わざわざの薪窯はロケットストーブ式。足元の焚き口で薪を燃やすと上昇気流に乗って窯内に炎が噴射して窯内を温めるしくみ。
十分に窯が温まるには2時間かかる。準備ができたら生地を一本ずつ入れていく。
一度に焼けるのは60本。多い日で1日4回窯を焚き240本製造する。
焼き上がり。接合部分がカパッと開いているのが、よく焼けた証。
全ての作業を終えたら、窯に明日の薪を詰めて帰る。余熱で薪が乾燥して、翌日の着火がしやすくなるのだ。
大切なことは変わらずに
当初ひとりでやっていたシュトレンの製造は、組織を作ったことで製造量が格段に増えた。2010年に100個だったのが、2017年には約3000近い本数に。おかげさまで需要は年々増えていったのだが、需要が供給量を超えバランスが崩れてしまった。予約の開始とともに早い者勝ちの争奪戦が起きてしまい「シュトレンが買えない」との声を頂くことも多かった。
例えばこの状況を解決するために一つ工房を借りて、大きな電気オーブンとミキサーを購入し、大量のアルバイトを雇い、シュトレンを生産しお届けすることも可能だったかもしれない。だけど、いつだってわざわざはそんな選択をしてこなかった。わたし達が楽しく面白く、皆さまにいいなと思うものを提供し続けたい。変化の毎日ではあるが、大切なことは常に変わらず大切にしてきたのだ。
10年かけてやってきたこと
製造過程で付いてしまった焦げや灰はナイフで落としてから梱包する。
その後も体制を整え続け、2018年は大幅に製造量を増やすことができた。その数、5820本。1ホールと1/2サイズと合わせると個数にして7760個。ついに売り切れることなく翌日まで購入できるような余裕が生まれた。お客様が焦らず購入できる余裕が生まれたのは良いことなのだが、同じ2018年の販売最終週、「来週までにシュトレンを全部完売させないといけないのに、まだ200本ほど売れ残っている!」ということがあった。
シュトレンの食べ方をSNSにアップして告知しようと思うものの、仕事が詰まりに詰まっていてなかなか書くことができなかった。そこでツイッターに「シュトレンが200本残っています。皆さんぜひリツイートしていただけませんか?」とだけ呟いた。すると、フォロワーの皆さんが一人一人熱い思いを乗せて「おいしい、買って!」とコメント付きでツイートしてくださったのだ。
朝起きたら、全部売り切れていた。わざわざが10年かけてやってきたこと、築いてきた信用などが積み重なって、皆さんと本当に近しい親戚のような関係になれたことが感慨深かった。
ピンチなの?助けるよ!がんばれ!と、まるでドラゴンボールの元気玉のようにお客様が親身にわざわざを思いやってくれる。「わざわざ」はただの会社だし店だけど、感情があり、人間らしさがあるように感じた出来事だった。
そして現在、需要に見合った適切量を作ることができている。二人一組で1本ずつ窯入れする方法を確立したことで、ロスも減少。焼けたシュトレンが冷めたら検品に入り、焦げや灰が付いたものがあればナイフで丁寧に落とす。大量に生産しながらも、作り方はより丁寧になっていったのだ。
熟成したシュトレンはチーズやヨーグルトの酸味と相性抜群。甘すぎない味なので、デザート風にしたいときははちみつやシロップをかけて。
生ハムとみかん、ハーブと合わせておつまみ風にも。冬にシュトレンでワインを飲むのがとても楽しみなのである。
おいしさは人それぞれで、全員の口に合うかはわからない。だけどできるだけ多くの人に、買ってよかったと言っていただけるように、おいしかったと言っていただけるようにやってみたい。売れればいいとは全く思わない。かと言って、好きな人だけ買ってくれればいいとも思わない。できるだけ多くの様々な人に、年月をかけて愛される。わざわざはこれからもそんなものづくりをしたいと思う。
わざわざのシュトレン、今年は10/13(金)より予約販売を承ります。
楽しみにお待ちくださいませ!
ストア紹介
パンと日用品の店 わざわざ
パンと日用品の店〈わざわざ〉は長野県東御市御牧原の山の上にポツンと佇む小さなお店。“よき生活者になる”を合言葉に、薪窯で焼いたパンと、食と生活それぞれの面から、独自の選定基準を定めて自分たちが心からよいと...もっと見る