服を通して人を知る
yohakuの渡辺さんと出会ったのは確か2014年のことだ。わざわざでは薪窯でパンを焼いている。毎日、粉と水と火にまみれてパンを焼く仕事をしていると着る服・エプロン、全てが最速で綻んでしまう。ハードワークに耐えうる服とエプロンが欲しいと、ずっと探していたのだがどうしても最適な服が見つからない。そんな話をうなぎの寝床 白水代表に話していると、東京にyohakuという面白いメーカーがあるよと言われ、ほいほいと紹介してもらって行ったのが初めてだった。
当時yohakuの店舗は浅草にあって、とりあえずyohakuというブランドがどんな服を作っているかと色々試着させてもらったり、ざっと話を聞いたり、店内を案内してもらったりしたのだけれど、正直、概要が掴めなかった。
渡辺さんが実家の肌着製造会社を継いだのち、カットソーを主体とした自社ブランドのyohakuが始まったと聞いていた。それなのに、備後絣で作ったパンツがあったり、店舗では作家さんの展示会をやっていたり、どうも話と結びつかずよくわからない。ただ、朴訥としているが面白そうな人だなぁという印象を抱き家路についたのだった。
その後、何度も顔を合わせ話し合い、互いの店を行き来し交流を深め、途中パン屋のTシャツ、パン屋の帽子とわざわざオリジナルのヒット商品を一緒に作ったりして、今に至る。
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ニットのことから聞いてみよう。
布には大きく分けて2種類ある。織物と編み物だ。
大抵の布は織るか編むかで出来ていて、カットソーなどの伸縮性のあるものは大抵が編み物である。編み物のことを通称ニットと呼び、yohakuというブランドの主軸製品はニットになる。ニットというと毛糸を想像するかもしれないが、そうではなく、いわゆるカットソーや毛糸製品などの編みでできた布製品を総称して「ニット」と呼ぶ。
糸から選び試作を重ねたテスト生地たち。商品化されていないものも複数ある。
yohakuを運営する(株)サンカーべは、渡辺さんがお父様より継いだ会社である。お父様の時代は主に肌着の製造を行っており、OEMが中心でメーカーから仕事を請け負う会社であった。当時は大量生産・大量消費の時代。作ったら売れるというサイクルが日本全体に染まっており、その消費社会に誰も何の疑問も持っていなかったと言ってもいいかもしれない。
会社を引き継いでから渡辺さんは自問自答し、ある日スパッと下請けをやめて自社ブランドに切り替えることを決意する。それがyohakuの誕生だ。
渡辺さんは綿の栽培者の方をさん付けで呼ぶ。サリーフォックスさんのブラウン綿、グリーン綿などなど。
yohakuの定番服は糸から選ばれて、布になり、服になる。
いわゆる下請けの形態をやめてオリジナルブランドを始めた2012年、最初に作った服がジップパーカーであった。オーガニックコットンを使って服を作る場合、多くのメーカーが服の表側にオーガニックコットンを使い、裏地に通常のコットンを使う。下請け時代に、肌に触れる裏地がオーガニックコットンだったらどんなに気持ちがいいだろうと想像していたという。ブランドスタート時に作ったパーカーにはそんな気持ちがギュッと込められていた。
yohakuの定番、茶綿ジップパーカーを着る渡辺さん
オーガニックコットンが使われていますよと主張するよりも、着心地を重視し、感覚として気持ちがいいと感じることを大切にする。渡辺さんの服作りには一貫してその感覚を感じるのだ。yohakuの服をまとった時に感じる柔らかさは、そういう思想から出てくるものなのだと思う。
綿は食べ物と同じ
さて、皆さんはご存知だろうか? 天然繊維の服は農作物からスタートしているということを。コットンであれば、畑に綿花の種を蒔き、芽が出て花が咲き実をつける。弾けた実の中の種子を包む白い綿毛が綿の原料となる。原材料の栽培中に農薬を使わず認証を受けると、晴れてオーガニックコットンと呼ばれることになる。
労働面や環境面からもオーガニックコットンの重要性は近年高まっているが、渡辺さんはオーガニックコットンの服について話す時「農業なんですよね」とよく呟く。「農業であるということは、食べ物なんですよね」。
yohakuの服のプライスタグには、オーガニックコットンであることが声高に謳われていない。品質表示のタグにそっとオーガニックコットン何%と表示があるだけの場合が多く、オーガニックコットンだけで服を作るということでもなく、スタンスが見えにくい。
見るからに肌触りの気持ちいい谷繊維とのコラボTUTUシリーズ
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肌に触れる部分はオーガニックコットンだと気持ちがいいよね。天然染料っていい色だね。だけど、合成染料の使いやすさっていうのもあるよね。工場で余っている布は選ばず捨てずに使い切ろうね。yohakuはそうやって淡々とよいものを取り入れる。環境負荷をかけずにとか、農薬反対とか、一つの正しさだけを突き詰めようとするのではなく、ただそこにあるものを大切に使おうねということなのかもしれない。
ご飯はお百姓さんが一生懸命作ったものだから、一粒残さず食べようね。
渡辺さんの話を聞いていたら、そうやって伝えてくれるお母さんのような暖かさを感じたのだった。ご飯粒を一粒残らず食べましょうとは言われるが、綿花を余さず使いましょうとは誰も言わない。それを自分の役割として淡々とやり続けているのが渡辺さんだ。
藍染の糸を横糸に使った厚地。商品化する計画がなくとも、渡辺さんはまず生地を作る。
布という領域を横断しながら
yohakuの取り組みは一見してわかりにくい。世間はわかりやすいものに反応し、購買意欲を掻き立てられる。一言で説明できるような強いキャッチコピーがついたものは、トレンドを生み消費されていく。もしかしたら渡辺さんは、あえてわかりにくくしているのかもしれない。消費の反対側にいながら、きちんと届けていくしくみを作り続けているyohaku、すごいなと私は思う。
工場に残ってしまう残反を利用するシリーズも、10年ほど前のyohakuが始まった頃からある。残反を選んで使うとまた残る。だからあえて選ばない。不思議とどんな柄も誰かの元へと旅立っていくという。
産地の布も積極的に使う。備後絣シリーズ。こちらはニットではなく布帛。ニットだけにこだわらない自由さ。
積み上げられた段ボールの中には、工場で生地を裁断する時に出る裁断クズとなった布がたんまり入っていた。これから再生繊維として生まれ変わる。
時に布のまま売ることもある。店頭で生地の販売をしている。
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パンと日用品の店〈わざわざ〉は長野県東御市御牧原の山の上にポツンと佇む小さなお店。“よき生活者になる”を合言葉に、薪窯で焼いたパンと、食と生活それぞれの面から、独自の選定基準を定めて自分たちが心からよいと...もっと見る