ネットで画像はいくらでも見られる時代だが、古い装飾品や家具の細部は、画面で流し見しても頭に残りにくい。この本はドイツ人銀行家でありアートコレクター、パトロンでもあったマクシミリアン・フォン・ゴールドシュミット=ロスチャイルドの美術品コレクション集。まず箱の時点で、ただの美術書ではなく資料としての重さがある。
THE COLLECTION OF MAXIMILIAN VON GOLDSCHMIDT-ROTHSCHILD/アートブック
掲載されているのは、装飾品、絵画、オブジェ、家具など多岐にわたるコレクション。写真の並び方も、作品をありがたく見せるというより、記録として淡々と残している。こういう本は、インテリア本として眺めるより、造形の資料として拾い読みする方が面白い。
表紙は白地に文字だけ。派手な装丁ではないが、704ページの厚みがある。サイズはW168×D50×H247mm。持ち歩く本ではない。机や棚に置いて、時間のある時に開くタイプ。英語版なので文章を細かく読むには人を選ぶが、写真だけでも十分に情報量がある。
この本が扱うのは、単なる豪華なコレクションではない。ナチス政権下での迫害、フランクフルト市による着服、戦後の返還という重い背景も含まれている。美術品を「きれいなもの」としてだけ見るのではなく、所有、権力、記録の問題として見せてくるところが、この本の芯にある。
肖像画と宝飾箱。こういうページは、古いヨーロッパの装飾の過剰さがよく出る。金具、枠、赤い素材、細かな縁取り。現代のプロダクトでは削られがちな要素ばかりだが、見る側の目を鍛えるにはこういう過剰なものの方が役に立つ。
カトラリーのページは特に良い。柄の装飾、刃の形、金属のくすみ方まで見られる。実用品なのに、ほとんど武器のような緊張感がある。DUPON35で扱う道具や古物を見る時にも、こういう古い造形の記憶は案外効いてくる。
フクロウのオブジェは、今の量産雑貨とはまったく違う顔をしている。かわいく作ろうとしていない。むしろ少し不気味で、金属や陶器の硬さが前に出ている。こういうものを見ると、完璧に整った雑貨より、癖のある造形の方が長く記憶に残ることが分かる。
人物像のページは、素材の違いが面白い。ブロンズ、金彩、大理石の台座。派手さではなく、重さと表面の処理で見せている。こういう写真は、店のディスプレイや商品撮影を考える時にも使える。光を当てすぎない方が、物の輪郭が出る場合もある。
箱と水差し。どちらも装飾が細かく、現代の生活用品から見ると過剰すぎる。ただ、その過剰さには理由がある。素材、技術、権威、見せるための道具。古いものは、実用だけでなく背景まで背負っている。そこを見られるのが、この本の価値だと思う。
弱点を言えば、英語版で704ページ。気軽に読む本ではないし、軽いインテリア本を探している人には重い。若干の折れや擦れ、傷がある場合もある。けれど、古い装飾品、家具、オブジェの造形を資料として見たい人にはかなり濃い一冊。仕入れる価値があるのは、売れ筋の本ではなく、店の目線を深くする本だからだ。
THE COLLECTION OF MAXIMILIAN VON GOLDSCHMIDT-ROTHSCHILD/アートブック
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