それを永遠アイテムと呼ぶ
お気に入りの綿のTシャツがあって、夏の真っ盛りにはTシャツ1枚で過ごして、秋になって風が涼しくなってきたら、その上に綿か麻の白いシャツを羽織る。木枯らしが吹いてきて肌寒く感じる頃になったら、カシミアが少し入ったウールのセーターかカーディガンを白いシャツの上に着よう。そして、靴を綿のスニーカーから革靴に穿き替えるんだ。
いよいよ冬がやってくるとなったら、最後にウールのコートを羽織って出掛けたい。春になって暖かくなると共に一枚ずつ脱いでまたTシャツに戻るんだ。それで、破れたらまた同じのを買おう。
もうファッションのことはこういう風にしか考えてなくて、この通りにできるワードロープをここ数年、探している。通称「永遠アイテム」。永遠アイテムはなかなか見つからなくて、ほとんど持ってなくていつもジプシーしている。今のところ、集まった永遠アイテムは永遠スニーカー、永遠サンダルくらい。服はいつかダメになるから、こういう定番アイテムをいつもきちんと作っているところに出会いたいのだが、なかなか見つからなくて時々やきもきする。
それで、新たな永遠アイテムにやっと出会えた。永遠ジーンズ、発見!!
<わざわざ代表 平田はる香が開業時より毎日綴ってきた膨大な文章のアーカイブから、厳選して掲載するわざわざ傑作選。この投稿は2011年1月のブログ「硬いジーンズ」の再編集版です。>
硬いジーンズは、特別だった
ジーンズはいつの間にか変わってしまった。新品のノンウォッシュの糊で固まったようなゴワゴワな生地のを穿いて穿いて、寝る間も惜しんで毎日はいて、洗わないでおくか、一回水を通してみるか悩んで風呂場の脱衣所に置いてたら、いつの間にか綺麗に洗濯されてタンスに収まっていた。物凄くがっかりして腹が立って腹が立って怒鳴りに行こうかと思ったけど、置いてた自分が一番悪い。バカバカバカってジーンズに顔を埋めたら、石鹸の香りが漂ってきて、まぁいっかっていうのを繰り返すと言うか、何というか。
ただの布だったのを、自分の体にぴたっと寄り添っていくのを楽しんでいく、私にとって何か特別なファッションだったはずだったのに。
ジーンズはいつの間にか、店に並んでいる時からきれいに縦落ちしてたり、ほつれ掛けてたりして、絶対ペンキなんか塗ったことのないような娘がペンキなんかつけちゃったりしてなぁ。ほんと、がっかり、しょんぼり。
かく言う私も時流に乗って、ジーンズを育てることを忘れ、そういった類のジーンズを買って穿くようになって数年。最初からUSED加工されているから当たり前だが、破れるのがとにかく早い。作業着だったはずで、丈夫であったはずのジーンズがとにかく弱い。弱いのよ。なんじゃ、この貧弱さは!けしからん。
「2%のポリウレタンで伸縮性を良くしました」じゃない!じゃない!違うの、ジーンズは硬くて穿きにくいモノなのよ。穿きづらかったジーンズが努力によっていつか柔らかくなるのよ。そうじゃなくなったらジーンズじゃないのよぉ。と思っていたので、買い物に出掛けるたびジーンズを探していました。
2021年現在は、オールユアーズのハイキックジーンズも愛用中。ポリエステル7%、ポリウレタン2%配合の穿きやすさにもきちっと迎合。
まず高校生の時に気に入って育て上げたLeeを探しましたが、時代はLeeとのコラボレートです。色々なファッションブランドがLeeとコラボして色々なジーンズを作るOEMみたいなのばっかりで、かっこいいのもありますが、やっぱり加工されていてお値段が張ります。ダメです。
20年以上愛し続けたLeeのこと
高校生の時に買ったLeeはメンズの一番小さいサイズのものでした。女性モノはおへその下まで股上がある時代で、それがダサくて耐えられなかったのです。ジーンズは腰だろ!と思っていたのですが、年々股上が下がっていくものの、腰までは至らず、微妙なラインでした。
今でこそ腰穿きが当たり前の時代ですが、当時は全然浅く穿ける女性物のジーンズなんてありませんでした(今の腰穿きは逆に浅すぎてダメ。オバサンになると腰は冷やしちゃいかんのです)。リーバイスの17501が男物の501の女性版だなんて聞いて試したこともありましたが、Leeの方が色落ちが断然好みで、ジーンズはLee派です。
時代が変わり、20代前半の頃。いい感じに縦落ちしてきたLeeにもうちょっと癖が欲しいと、軽石でこすったり、石鹸水で揉んだり、針でつついたりしてちょっとしたダメージ加工を自分で施して気に入って毎日穿いていました。20代中盤になるとかなりダメージがきつくなり、ぼろぼろになり、引退の時が訪れました。ボロボロになっても愛着がありすぎて思い出がありすぎて捨てられません。そこで、バッグにリメイクして再び活躍してもらうことにしました。
これこそ永遠ジーンズ。高校生の時にお金を溜めて買ったジーンズを20年近く経った今でも愛せるなんて、最高です。こんな出会いが欲しいです。私は、いつでも青春をぶら下げて歩くことができるのです!
「2週間我慢してください」
時代はいつからかダメージ加工からキレイ目ジーンズに。私の趣味ももうそろそろ大人っぽくということでLeeからシマロンに乗り換えて、しばらく気に入って穿いていましたが、体に沿いすぎるジーンズは年々きつくなります。体が着物の中である程度泳いで欲しいのです。
そうこうしてたどり着いた永遠ジーンズは、A.P.C.のモノでした。実は、20代前半にLeeのジーンズと平行して気に入って穿いていたのがA.P.C.のデニム。雑誌の編集部でバイトしていた時、よく服を編集の人からもらいました。A.P.C.のジーンズのサイズが合わなくなったと1000円で譲ってもらい、かなり気に入って穿き込んでいましたが、残念、股上が深い。股上が深いとお尻のラインがきれいに出ないのです。色落ち、穿くにつれての馴染み感ともに最高だったのに、本当に惜しいジーンズで、もったいないジーンズだったのです。
久しぶりにA.P.C.に行ってジーンズを物色していると、ストレッチが効いたものしかない。店員さんに聞くと、10年ほど前に出たジーンズが定番商品であると言います。「でもそれは股上が深くてもったいないジーンズです」と私が言うと、「いえいえ、その形を変えずに股上を浅くしたバージョンが出てます」と言うのです!さらに「膝下のもたつきを押さえたバージョンも出てます」と言うのです!「でかした!A.P.C.!」とは言いませんでしたが、早速試着してみました。
硬いです、硬すぎて懐かしいです。あぁ、ジーンズってこうだった…感慨深いです。
ボタンフライが硬すぎてボタンホールにうまく入りません。お腹を引っ込めて真冬に汗をかきながら試着をするのです。店員さんは1サイズ大きいのを穿きたがる私を制してこう言います。
「2週間我慢してください。お客様にはこのサイズが最適なのです!」
そこまで言われると自信が湧いてきます。10年前に穿いていたジーンズは確かに緩かった。穿くほどに緩くなってもたつきました。10年前より1サイズ小さめを買うことにかなりの抵抗を見せましたが、断固店員さんに拒否されます。その姿、店員さんあっぱれです。そういうの嫌いじゃありません!自分の店の商品にキチッとしたポリシーが見られ嬉しくなり、言うことを聞くことにしました。
それから1週間が経ちました。経過はかなり順調です。どんどん生地が柔らかくなるこの感じ、ボタンフライを留める速度が速くなってくこの感じ。トイレに行くのが大分億劫じゃなくなってきました。いいです、もう一本欲しいです。クルクル回して穿きたいです。気に入りました。
ジーンズとしての価格は私にとってかなり高価な部類でしたが、いい買い物しました。とても満足しています。これで10年は確実に穿けるならOK(実証済み)。本当はもう一本買って、2つで回して30年といきたいところですが、それはもうちょっと働いてからのお楽しみにとっておくことにします。
「ジーンズとは柔らかくするものなのだ。」by わざわざ
(深い意味は全くありません)
【編注】後日談。このあと平田はA.P.Cのジーンズを追加でもう1本購入(実はそのジーンズが今回の記事バナーになりました)。硬いジーンズは変わらず愛用して育てつつ、「ジーンズとは柔らかくするものなのだ」という概念は、新たなデニムやもんぺとの出会いによって少しずつ変化していきます。
わざわざでは現在、オリジナルプロダクトであるパン屋のTシャツ(新色出た!)、ストレッチもんぺを猛烈にプッシュ中です。快適に着られる服でありながら、ジーンズと同じように育てる楽しみを味わえる服を作っています。詳しくは次回の更新で!
わざわざ|パン屋のTシャツ 長袖 シャツ ロンT ユニセックス
わざわざ|ストレッチもんぺ わざわざオリジナル【ユニセックス】
もんぺの手織り藍染。こうやってファッションは緩やかに変化していく。
わざわざのパンも、ぜひ一度お試しください。
ストア紹介
パンと日用品の店 わざわざ
パンと日用品の店〈わざわざ〉は長野県東御市御牧原の山の上にポツンと佇む小さなお店。“よき生活者になる”を合言葉に、薪窯で焼いたパンと、食と生活それぞれの面から、独自の選定基準を定めて自分たちが心からよいと...もっと見る