コンセプター・和田健司さんによるエッセイ「love letter from K.」。
KOZでのお買い物がもっと楽しくなるヒントをお届けします。
タピオカの水風呂でととのう
シーズン5では「好きと嫌い」をテーマに書いていますが、この2つの感情って、いつも隣り合わせに存在してるよなぁと思うんです。水と油みたいにぴったりと付いているのに、お互い正反対。これが、掘っていくとなかなか面白く、物の選び方にも大きく関係しています。
例えばですが、ずっと好きで続けていたのにある日突然嫌いになる。「なんか冷めちゃった。」みなさんはそんな瞬間に出くわした事はあるでしょうか?インディーズ時代から応援していたミュージシャンがメジャーデビューした途端にそこまで熱が入らなくなってしまった的なアレです。今回のエピソードは、「好きが嫌いになる」その謎に迫っていこうと思います。
サウナ大好き
今、トレンドの真っ直中の「サウナ」。コロナ禍で乱れた精神を癒やし、心に平穏を取り戻してくれる温冷交代浴。余計な邪念がすーっと消えていき、頭の中も整理されるのでビジネスマンにも人気。以前の回でも少し触れたのですが、僕も随分前からお世話になっています。今考えているアイデアが本当にそれで良いのか、サウナに入ってリラックスしていると答えが出るんですね。更に一段上のアイデアが浮かぶ事もしばしばあって、サウナベンチから結構な額の売上が生まれていると思います(笑)。(もしかしたらSTIIKのネーミングもそこから生まれているかも…)
趣味が結構続かない僕でも、5,6年にはなるでしょうか。全国各地色々な施設に行きました。幸い実家のある愛知県にはサウナ界のゴッドファーザーが生んだ「ウェルビー」というサウナ好きには神のような施設があり、何回足を運んだことでしょう。このウェルビー、ずっと昔からあったのですが地元の人的には、“酔い潰れたサラリーマンが仕方なく泊まる、ちょっと治安の悪いカプセルホテル”のように思われており、あまり見向きもされない場所だったのですが今ではもう…サウナーの聖地。記憶に残る事間違いなしの場所ですから、コロナ明けで名古屋に訪れる機会があったらぜひぜひ。
最近行ってます?
そんな大好きだったサウナ、実はもう3ヶ月ほど行っていません。週1では必ず行っていたのに…。理由はひとつ。「サウナブーム」です。都内近郊であれば大体どんな場所でも、“並ぶ”ようになりました。サウナに入る前も、裸でずらっと。火照った体で水風呂に入るにも待つ。ととのい椅子は空いていません。男湯で裸の男性が列をなしているのは割とコミカルで、それはそれで滑稽な景色なのですが、今までのようにフラッと寄れるような場所ではなくなってしまいました。
「最近サウナ行ってます?」
たぶん僕よりサウナ歴の長い、行きつけの美容師さんに聞いてみると、 「いやぁ~、それが行ってないんですよ。多分もう2,3ヶ月。」
(僕:同じだ…)
「なんだろうなぁ、行こうとして混んでたり、並んだりするのかなぁと思うと行く気がなくなっちゃって。」
(僕:ほぼ同じ理由だし…)
「これだけブームになると、行ってもゆっくりできなくなっちゃって。横でサウナハット被った3人連れとかが、ととのった?ととのった?って話してるのを耳にしながら、サウナ内ではととのわんだろ…と逆にイライラしちゃうから。(笑)」
(僕:あーわかる…)
「サウナって僕にとっては、精神的な休憩場所なんすよね。自分は月曜日休みなんですけど、一時期昼間に赤羽でゆっくり飲むのにはまってた時期があって。でも赤羽ブームみたいなのが来て、常連のおじさん達の横でキャッキャしながら騒いでる若者を“俺たちの憩いの時間を返せ~”的な目で見てました。これはもう汚染ですよ。ハハハ…。」
ととのえ、量産型
皮肉めいた話も色々飛び交い、聞く人が聞けばあまり心地良い話ではないかもしれないですが、今こうして振り返ってみても、美容師さんは割と芯を捉えている。
元々は精神を鎮めたりゆっくりするためにやっていた趣味がそうでなくなる。目的がいつの間にか、すり替わってしまう。釣りをしながらボーッとするのが好きだったのに、ブームが来たら、周りは人だらけで気づいたら縄張りの取り合いをしている自分がいる。釣りの本流がそっち(釣りの仕方)になってしまうんですね。サウナも同じだなと。自分へのメディテーションだったものが、大きな波がざーっと来て、気づいたらそれ自体がレクリエーション(娯楽)になってしまう。ととのった~!って言うためにサウナに通ってる。自分にとっての趣味の本質を見失ってしまうんです。だから、あんなに好きだったのに、「こうじゃない=嫌い」という感情が芽生えてくるのかもしれません。
ずっとその業界で頑張ってきた人達にとっては、ようやく日の目を見る事ができて良かったなぁと思いますが、人々が殺到して、並ぶこと自体に意味を持つようになれば、常連さんは離れていき、もともとあった価値はいつのまにか破壊されてしまう。もちろんその頃には誰もそこにいません。タピオカブームを見てみれば一目瞭然。本当に昔からあの味が好きで、飲んでいた人は今どこにいるのでしょうね。ブームとは言い換えれば、大人達の経済インベージョン(侵略)なのかもしれません。
そこに、愛はあるんか?
「何でもそうだけど、行きすぎるんだよね、結局。外食でも、行きすぎてるとそれが当たり前になって、わけがわからなくなる。久々にお店で食べると、こんなに美味しかったっけ?って。サウナも、本当に行きたい!と思った時に行く位が最高に“ととのえる”のかも。」そう語る美容師さんの言葉の隙間には、愛のようなものが見え隠れしていました。
「嫌いになる」というのはそれが「好き」な証拠なんでしょうね。僕も、嫌な事があったりした時にサウナに何回も助けられましたから。ブームは嫌いだけど、久々に、サウナ、行ってみようかな。
つづく
COZY PUBLISHING|Hobby (ホビー) 本/洋書/インテリア
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。
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