東北の藁細工
昔から農家の多かった東北地方。
冬場に降る大量の雪が、山からの栄養を含んだ雪解け水となって広い土地に流れ込み、美味しいお米ができる「米どころ」として発展してきました。
そんな東北農家の、田畑での作業ができない冬の仕事として行われていたのが、収穫の際に出る「稲藁」を使用した藁細工です。
雪の積もった道を歩くのに欠かせないミノやかんじき、次の農業シーズンに必要な縄、その他日常の生活で必要になるワラジや箒など、藁で作られるものはたくさんありました。
今では見かけることも少ないですが、藁は当時の生活に欠かせない、大切な「暮らしの道具の原料」だったのです。
稲藁は茎の中が空洞になっており、クッション性と保温性があります。
生活の中で使うものを作るにはちょうど良い性質のため、とても理にかなっていたことが伺えます。
美しいしめ飾りや、郷土玩具にもなる稲藁。
しかし、現代ではお米の収穫はほぼ機械化され、収穫と同時に機械によって藁も粉砕されてしまうため、藁細工に使われるような、長く綺麗な形の国産藁の入手は難しくなってきているのだそうです。
また、担い手不足も重なり、藁細工職人の数も減少している現実があります。
東北の竹細工
岩手県の竹細工である「鳥越竹細工」。
その起源は平安時代、鳥越観音開山の僧が伝えたとも言われています。
当地に自生する良質な「スズタケ」の一年物を使い、手間を惜しまず編み込まれた製品は、実用的で丈夫。使い込むほどいい色つやに変化していきます。
小さな竹ざるの「おしぼり入れ」は、小物入れとして活躍
この鳥越竹細工も、現在、材料の入手が難しい状況です。
大きな原因は数年前、材料となるスズタケが「一斉開花」によって枯れ、新竹がほとんど生えてこないことが挙げられます。
竹はその長い寿命の最後に一斉に花を咲かせ、そして枯れてしまうという特徴があり、該当地域のスズタケの一斉開花は明治30年以来。実に120年ぶりのことでした。
昔は地域の工芸品として、また、特産品としてたくさん生産されていた竹細工ですが、枯れた竹が回復するにはかなりの年数が必要と思われること、さらに、職人の高齢化も進み、現在では50人ほどの作り手しかおらず、産地・生産意地が危うい状況となっています。
今買っておかないと後悔する、そんな風にも言われている、貴重な竹細工です。
昔の生活道具が、今では貴重な民芸品に
現代では、昔にはなかった便利な道具がたくさん登場し、人々の生活もどんどん豊かになっています。
それはとても素晴らしいことですが、たまに、少しだけ立ち止まって昔ながらの道具たちに目を向けてみる。
すると、当時の人々の工夫や技術、ものを最後まで大切に使う精神、素朴な優しさなど、その背景にある歴史から様々な想いが感じられます。
自然から採れたものや、その副産物を使い、生活の道具とする。
人と自然が共にある暮しを、ふと思い出させてくれる。
そんな素敵な道具たちが、今では貴重な民芸品となり細々と作り続けられています。
ストア紹介
縁日
大正7年(1918年)創業、岩手県一関市の染物屋・京屋染物店(en・nichi)が運営するセレクトショップ「縁日」。
東北のものづくりを中心に、丁寧に作られ、丁寧に使いたくなる暮らしの道具をセレクトし、...もっと見る