出会いは暑い夏の日だった。
椿井木工舎の二宮さんと出会ったのは、2019年の動かなくても汗が吹き出すような暑い夏の日だった。りんねしゃの飯尾さんが主催する東別院てづくり朝市に視察に伺った時だ。マルシェや朝市に行くのは久々で、当時すでに5年も続いているということ、約200店舗が出店し1日の売上高が1000万円を超える巨大なマーケットになっていることなど、興味津々で伺ったのだった。
園内を2周して気になったところで買い物しながらリサーチをする。職業病でものづくりをしている人への興味が尽きない。特に気になったのが二宮さんの木工作品で、どこからどうみても作りのいいコーヒーメジャースプーンが、兎に角、気になって手に取った。磨きが素晴らしくいい意味で手作り感がない。
▶ 椿井木工舎 二宮大輔さん プロフィール
1983年 佐賀県有田町で陶磁器(有田焼)の製造・販売を営む家に生まれる。
2002年 佐賀県立有田工業高校デザイン科 卒業
2002年〜2016年 大手車メーカーのクレイモデラーとして働く。
2016年 長野県上松技術専門校木工科 入学 木工技術の基礎を学ぶ。
2017年3月、同校同科 卒業
2017年 長野県上松町にて椿井木工舎 開業
公式サイト:https://zweiwoodwork.com/
Instagram:@zweiwoodwork
ともすると、工業製品
熟練した職人や作家になればなるほど、不思議な現象が起こる。できあがった製品が工業化するのだ。かつて工場がなかった頃、人は手で全てのものを作り出していた。目指すは均一な美しさである。長く仕事に携わり研究し鍛錬を積むと、人の手で作ったとは思えないような均一な作品が生まれていく。職人技とも言われその技術は高く評価された。
時代が変わり工業化が進み、大量に均一なものを作ることができるようになると、世の中に同じものが溢れ出した。消費者はいつも同じものに囲まれ、物を見る目を失った。かつて職人技と言われた技術と工業化で大量生産したものを見誤るようになったのだ。
高い技術の手仕事で作ったものと、工業製品は明らかに違うものである。だが目が曇ると、同じようものが沢山あるという一点において、同じものに見えてくる。揺らぎがあるものが手仕事であるという認識が多くなってしまった現在、工業製品に揺らぎを作る動きも出てきている。手仕事と工業製品が交差する不思議な時代になったとも思う。二宮さんの語った「手仕事が情緒的であるものとは限らない」という言葉が、胸に深く突き刺さった。
椿井木工舎 × わざわざ
わざわざの姉妹店・問touではコーヒー豆をセラーメイトのガラス瓶に入れて保管している。このガラス瓶にスプーンも一緒に入れて保管したい!という願望を実現していただいたのが、椿井木工舎×わざわざのコーヒーメジャースプーン。
こちらのS、M、Lのサイズが、セラーメイトにちょうど入るようにハンドルの長さを調整してもらった。豆が少なくなっても底にある豆までハンドルがつっかえず届くのが嬉しい。
また深煎りの豆である問touブレンドを、山盛りで15gすくえる容量であることもリクエストした。椿井木工舎の定番として作られている「ワグテイル」よりも大きな容量が必要で、すくう穴は直径42mmから45mmへ、穴の深さは23mmから27mmへと仕様を変更して作ってもらった。サイズが異なれば製作に必要な道具も変わるため、二宮さんは専用の道具である治具(じぐ)から新たに作ってくれたのだった。
1.材料とする木材の厚みを揃え、木の繊維方向、材料の歩留まりなどを考慮して型を配置し、墨をする。
3.ルーターマシンという機械で、手作りの治具を使い、外周を精度良く整える。ボール盤にフォスナービットをセットして、下穴を掘る。
4.ルーターマシンと治具、特注の専用刃物を使用して、すくう部分の穴を加工する。
5.ルーターマシンやトリマー、様々な形状の刃物、治具を使用して、穴の縁や外側、持ち手の部分などを加工する。
6.スピンドルサンダー、小刀などを使用して、機械では加工できない細かい形状を成型する。チューブサンダーである程度仕上げ研磨して、最後はアールや稜線の通りをひとつひとつ確認しながら、手仕上げによる入念な研磨を施して、素地が完成。
7.1回目のオイル塗装後、もう一度研磨。2回目のオイル塗装を施して、完成。
明解なデザイン力を実際のかたちにするのは、「治具を使った効率的な加工」と「手仕事による加工」と二宮さんは言う。それがこの工程で見受けられる。
正確無比
二宮さんは自動車メーカーのクレイモデラーとして十数年従事した後、長野県上松町の学校を出て2017年に独立開業されている。出会った2019年当時、二宮さんの木工作家としてのキャリアはまだ2年で、こんなに精密な仕事を2年でできるのかと驚いた。だが、初めて聞いたクレイモデラーという仕事の内容で納得した。自動車のデザインができあがった後に立体におこす仕事で(詳しくはぜひ調べてみて欲しい)、造形を正確無比に行うという点でなんら作家と変わりないような気がしたのだった。だから二宮さんはずっとものづくりの人だ。
同じ形に仕上げるために沢山の自作の治具(じぐ)を使っている。
治具とは加工や組み立ての際、部品を固定し作業をやりやすくするもの
それから、取材させてもらいながら二宮さんの所作がとてもいいなと思った。兎に角、話しながら作業しながらすぐに片付ける。木屑を片付け、出した器具をすぐ元の位置にしまう。身についた作業が自然と出る様子に、やっぱりこの作品を作る人だなぁと感動したのだった。
自給自足的な生活
上松町にある工房の風景。うわっ、電車きた!って興奮して写真撮っちゃいますもん。
名古屋から上松への環境変化も、望むべくものだったと二宮さんは言う。同じ長野県に住んでいたものの上松町は初訪問だった。わざわざも相当だが、上松町は想像を超える景観だった。うん、何にもない。コンビニもスーパーもなかった。二宮さん、すごいっす。いやー、びっくりしました。
二宮さんご夫妻は工房の前の畑で自分たちが食べる野菜を作り、時に地元の方々にジビエをいただき、奥様は罠も習い始めているとおっしゃっていた。おやつに出していたいただいた手作りのお漬物のおいしかったこと。赤カブ漬け、すんき漬け。思い出して食べたくなります。
作り続けるということ
椿井木工舎 × わざわざのコーヒーメジャースプーンは、2020年2月の販売開始からこれまでおよそ400本近くを二宮さんに製作いただき、販売を続けています(2021年4月時点)。二宮さんはご自身のSNSで「作るたびに、ものの品質と自身の限界値が段々と上がっていることを感じます」と語ってくれていました。
私たちが本当に欲しいと思うものが多くのお客様のもとへと届いていること。そして一度限りでなく、新たな定番となってものづくりを継続できることに喜びを感じています。これからも作る人・売る人・買う人、良好な関係性を築きながら、三方によいものづくりを続けていきたいと思います。
椿井木工舎 × わざわざ|コーヒーメジャースプーン
わざわざのパンも、ぜひ一度お試しください。
ストア紹介
パンと日用品の店 わざわざ
パンと日用品の店〈わざわざ〉は長野県東御市御牧原の山の上にポツンと佇む小さなお店。“よき生活者になる”を合言葉に、薪窯で焼いたパンと、食と生活それぞれの面から、独自の選定基準を定めて自分たちが心からよいと...もっと見る