新三郎商店を運営する平川さんに初めて会ったのは2018年のことでした。福岡県糸島市におもしろい塩作りをしつつ、複合型の事業を展開している人がいるよと紹介され、平川さんに会いに行きました。
当時、平川さんはユンボで崖を削っている最中でした。あまりにインパクトの強い登場の仕方で、思わず初対面なのに笑ってしまったことをよく覚えています。
平川さんは2000年に開業してから、糸島の先端に借りた土地を自力で開墾して、0から塩作りに取り組んでいきました。現在も自分たちで開拓したり店を作ったりしながら、レストランやカフェなどを運営して事業を広げています。
2回目に伺った時はユンボには乗っていませんでした。笑
新三郎商店の代表的な商品が「またいちの塩」です。もともと懐石料理の料理人であった平川さんが辿り着いたのが塩です。おいしい塩を自分で作りたいと、きれいな海水を求め糸島に辿り着き創業しました。海水を汲み上げ天日干しをし、旨みを凝縮させた後に薪窯で焚き、さまざまな種類の塩を作っています。
その塩をかけて食べる塩プリンが大人気となり、糸島の塩作りをしている「工房とったん」の店舗には週末に大行列ができるほどです。
工房とったんの様子。週末にはプリンや塩を求める人の行列ができます
名物の塩プリンは塩をかけると甘さが引き立ってとてもおいしい...!
ちなみにまたいちの塩の「またいち」はお父様のお名前から取ったそうです。会社名である新三郎はお祖父様のお名前です。その他の経営するお店の名前もご家族のお名前をとったものが多いそうで、親しみが湧くネーミングの秘密はここにありました。
取り扱いしないからするへ
初めて出会った時に、丁寧に塩を作る工程を説明していただきました。わざわざは薪でパンを焼いていますので、同じく薪で食品を作る者として薪談義に花が咲き、名物の塩プリンを食べ、塩を買い物させていただき楽しく帰路につきました。ですが、当時は取り扱いすることにはならなかったのです。
わざわざには食品選定基準がありますが、その中に無理のない価格帯という基準があります。塩は毎日使うものですから、わざわざが取り扱っている塩よりも一段階高く、またいちの塩は毎日使うには少し高すぎるかもしれないと思ったことが要因でした。ただ、本当に奥行きのあるおいしい塩だなと感じており、塩を作る過程もこだわりも共感しており、基準をどこまで守るべきかと深く考えるきっかけになったのです。
その後、考え方の変化に伴って2022年からまたいちの塩を取り扱うことになりました。塩の種類が違うということや、使うシーンを変える、特別な塩として食べてみる、塩を楽しむなど平川さんとお話しするうちに、やはり皆さんに新三郎商店の取り組みとともに伝えたいという気持ちが大きくなっていったのです。そして、何よりおいしい塩を味わっていただきたいと思ったのです。
おいしい塩はどのように作られる?
糸島半島の突端にあるまたいちの塩作りをするための「工房とったん」。ここは玄界灘の外海と内海がぶつかり合う塩作りに最適な環境だと平川さんは言います。海と山のミネラルを豊富に含み、周辺民家が少ないため生活用水が入らないきれいな海水を使うことができます。
1週間から10日ほどかけて天日にさらされ海水が凝縮していきます
炊き上がってきた海水。窯を変えながら3日間ほどでこの状態に
海水を汲み上げてから1ヶ月ほどの期間をかけて、手作りで作られる塩がまたいちの塩です。平川さんにとって「おいしい塩」とはどんなものですか?とお聞きすると、こんな答えが返ってきました。
「そもそも塩がおいしいというよりも、塩によって素材の持っている味が引き出され、その、選ぶ塩によって料理がおいしくなると考えています。それをうまく引き出す役目を担う唯一の調味料が塩であり、間違いのない塩を選ぶことで、素材の味を楽しむことができるんです。
海水を汲み上げて塩の結晶を掬いあげるまで、ずるをせずに、無理強いをせずに、おいしい部分だけを抽出した結晶がまたいちの塩なのです。
調味料として素材と向き合う塩は、海水のおいしいところだけを結晶化させています。しっかりとミネラルや栄養素を蓄えたまま食卓に届くように、僕たちは 日々変わる天候や季節と対峙しています。」
ねっ?どんな塩なのか、食べたくなるでしょう?
平川さんの行動力と推進力は何もなかった糸島の突端に変化を与えています。現在、工房とったんの周りには店が増え、若い人たちが移住し、少しずつ地域が変容しています。わざわざも同じ辺境地の会社として、お互いに情報交換しながらこれからも一緒に協力しながら様々な取り組みができたらと考えています。平川さん、今後ともよろしくお願いいたします!
ストア紹介
パンと日用品の店 わざわざ
パンと日用品の店〈わざわざ〉は長野県東御市御牧原の山の上にポツンと佇む小さなお店。“よき生活者になる”を合言葉に、薪窯で焼いたパンと、食と生活それぞれの面から、独自の選定基準を定めて自分たちが心からよいと...もっと見る